北海道エナジートーク21 講演録
 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会
パネルディスカッション
 地球温暖化とエネルギー問題 〜なぜ今、核燃料サイクルなのか〜

 
(4-1)
    【第一部】 「北海道洞爺湖サミットの結果をふまえた
地球温暖化と日本のエネルギー事情」

北海道洞爺湖サミットの結果をふまえた地球温暖化と日本のエネルギー事情
 
コーディネーター
  千葉商科大学 政策情報学部教授   宮崎 緑 (みやざき みどり) 氏
パネリスト
  北海道大学 大学院工学研究科教授   奈良林 直 (ならばやし ただし) 氏
  元読売新聞論説委員、科学ジャーナリスト   中村 政雄 (なかむら まさお) 氏
  漫画家   里中 満智子 (さとなか まちこ) 氏
  (財)日本原子力文化振興財団 理事長   秋元 勇巳 (あきもと ゆうみ) 氏

「2050年までに炭酸ガス半減」は可能か

宮 崎(敬称略※以下同じ)    今、アメリカのサブプライムローンに端を発した金融危機で、世界経済が瀬戸際にあるといわれています。また、さまざまな危機が複合的に起こり、地球温暖化問題、エネルギー問題などはこれらの危機の中核に位置するのではないかと思います。
 今日はそうした背景に立ってパネルディスカッションを進めさせていただきます。前半は現状認識、後半は解決に向けた提言を予定しています。
 まずは、地球温暖化問題と日本のエネルギー事情について、今どうなっているのか。特にこの北海道はサミットが行われた地域でもあり、温暖化問題について世界のキーパーソンの役割もあろうかと思います。

 まず中村さんから、サミットの結果を踏まえた地球温暖化問題と日本のエネルギー事情についてご説明いただきます。


中 村    北海道洞爺湖サミットについては、皆さんも新聞やテレビなどでご覧になったと思います。「温暖化が進めば冬に暖房がいらないし、作物もたくさん獲れていいだろう」と思うかもしれませんが、温暖化が進めば今までの作物が獲れるとは限りません。世界中どこでも、気温や雨量などその土地の気候にいちばん適した農作物が獲れています。急に暖かくなると、今までの農作物はその変化に対応できない。地球温暖化は自然のスピードの10倍といわれ、今後はもっとスピードが上がっていきます。

 また、地球の氷の面積が減ってくると、太陽からもらうエネルギー量が変化します。氷が張っていると太陽からもらうエネルギーの80〜85%を反射しますが、溶けて海水になったりすると、逆に85%くらい吸収してしまう。つまり氷があるかないかによって、地球が太陽から受け取るエネルギーが違うということです。氷がどんどん減ると、太陽から受け取るエネルギーが急激に増えるので、ある日突然気候が大きく変化してしまうわけです。

 地球の歴史を見ると、気候の急変がしばしば起きています。その主たる原因は、炭酸ガスが大気中に増えているせいだというのが世界の気候学者の多くの意見です。そこで北海道洞爺湖サミットでは、努力目標として「2050年までに温暖化を促進する炭酸ガスなどの量を半分に減らそう」ということになりました。

 現在、炭酸ガスをいちばん多く出しているのが中国、次いでアメリカです。全体では途上国半分、先進国半分という割合です。途上国はこれから成長によってエネルギーが増えるので、先進国はゼロ以下にしないと全体として半分にすることは難しい状況です。中国やインドなどが先進国と同じように努力してくれないと困りますが、それがなかなか言えない。

 私は環境とエネルギーに関する国際会議に出たことがありますが、インドの代表がこのように話していました。「環境をこれだけ破壊したのは、あなたたち先進国じゃないか。そんなに環境が大事なら、100年前の生活に戻したらどうだ。我々途上国は、資源やエネルギーをたくさん使って豊かな生活をしたい。あなたたち先進国にそれを止める権利はない」と。

 100年前の生活に戻すとどうなるか。確かに環境は良くなりますが、実際には難しい。冷暖房も車も使えず、大変不自由な生活になります。石油やガスで走る車や飛行機、船などを一切使えなくなります。しかし、そこまでして本当に温暖化が止まるかどうかは難しいですね。

 京都議定書が議決されてから今日まで、日本は二酸化炭素を減らすと世界に約束しましたが、逆に増えています。わずか6%減らすことすらできない。減らす努力だけでは足りないから、さてどうするか。石油、石炭、ガスなどに代わる新しいエネルギーを使うのが次の対策になります。具体的には、太陽、風、地熱、バイオ、原子力、核融合などです。

パネリスト 中村政雄 氏 最近ではバイオが注目されていますが、ちょっとバイオブームが起きただけでトウモロコシの価格が倍以上になり、食料も値上がりするなど大変な状況です。日本の食料自給率は40%ですが、エネルギー自給率はわずか4%。これからエネルギーについても食料問題のような事態が起きると大変です。

 バイオはアメリカの農家が、豊作続きでいくら作って売っても所得が低いため、何とかしなければとブッシュ大統領が考えた策略ともいえます。それで自動車の燃料が全部アルコールに置き換わるかというと量的にとても無理です。日本で同じことをしようとしても国土が狭く、太陽、風、バイオでは限界があります。

   残る選択肢は、私は原子力しかないと思います。原子力は嫌いだという方もいますが、今、産油国である中東・アフリカ諸国が一斉に原子力をやろうとしています。なぜかというと、石油は40〜50年後にほとんどなくなってしまうといわれ、彼らにしてみれば石油をできるだけ長く、高い値段で売りたい。そのために原子力を使って石油の寿命を延ばしたいというのが理由です。ロシアやアメリカも原子力を増やそうとしています。私は、日本が原子力をやらなかったら江戸時代のような生活に戻るしかないと思います。これから資源が乏しくなり、技術でエネルギーを作っていく時代になります。その意味で原子力はエースではないかと思います。


宮 崎    ありがとうございました。北海道洞爺湖サミットで決まった「2050年までに炭酸ガスを半減しよう」という努力目標を実現するのはそれほど簡単ではないことが、今のお話でよくわかったと思います。
 里中さんはサミットをどんな思いでご覧になりましたか。


里 中    京都議定書の批准を拒否したときのように、アメリカは国益に反することについては結構頑固なところがありますね。サミットに関しては、努力目標とはいえ参加国に一応「うん」と言わせたという点で、のちのち日本は評価されるのではないかと思います。もしも、世界の政治家たちがパフォーマンスで「うん」と言ったのだとしたら希望は持てませんが、私たちが眉に唾して見てしまうと、政治家も「あれは駆け引きだから、うちの国は守らなくてもいいんだ」と大人の逃げ方をしてしまうでしょう。ですから、日本や世界中の人たちは「ああ言ったんだから努力を見せろ」という態度で今後を見ていかないと。ただ実際、この努力目標は耳に心地よすぎるとは思います。現実にどうやって削減するかという具体例があまり見えませんね。

パネリスト 里中満智子 氏 私たちは日常生活で電気をこまめに消そうとか、燃えるエネルギーはやめて電気に置き換えようと言いますが、電気だって何かを燃やして作っているわけです。家庭内のエネルギーをガスや石油から電気に置き換えて「これはクリーンなエネルギーなんだ」と思い込んでいても、電気を作る大本ではいろんな汚れを出している。そのように、何もかもいいことなんてこの世にはないと思います。

 中村さん、サミットで努力目標となった炭酸ガス削減について、実際どれくらい可能だと思われますか。


中 村   正直なところ、減らすことはほとんど不可能だと思います。だってここ20年間増え続けているわけでしょう。20年やってダメなものが30年やったら良くなるなんてあり得ない。これは他国も同じだと思います。そうすると、地球が大変になる。今までの歴史から見て、そういうときにどうなるかというと、戦争が起きたり病気が流行ったり、殺し合いで死んだりする。そういうことが起きて人間が減ると、問題は収まる。そこまで追い込まれて人間はやっと目が覚めるんです。

 しかし、人間がバカでなければ、石油やガスに代わるような燃料に切り替えていくでしょう。できるだけ生活を合理化して、あまり無駄なエネルギーを使わないようにする。そういう方法に切り替える時期を、いつまでにできるかということでしょうね。


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