エネルギー講演会
世界経済を揺るがす エネルギー資源獲得競争!
(6-6)
●若い世代に広がる将来不安
年金不安の問題が最近の若い世代の消費にも悪影響を及ぼすようになっています。若い世代の消費を表す言葉としてよく耳にするようになったのが、「車離れ」「海外旅行離れ」「恋愛離れ」というように、「○○離れ」というキーワードが多くなってきています。
例えば、恋愛離れについて表すグラフを見ると、18〜34歳の独身男女のうち「恋人がいない人」のその割合が年々高くなってきています。男性を見ていただくと、2015年で約7割が「恋人がいない」と回答していて、恋人のいない派がむしろ多数派を占めるようになっています。
そうすると、恋人がいないわけですから当然、デート代もプレゼント代も出てこない。恋愛離れが消費離れを加速させている側面もあるのではないかということです。
では、なぜ最近の若い世代がこれほどまでに恋愛に消極的になってしまったのかについてですが、やはり将来不安というものが根強くあって、消費に前のめりになっていけないという事情があるのではないかということです。
この将来不安の中身は何なのかということですが、経済面から見ると社会保障制度への不安が一番大きいということです。若い世代の方は自分が会社を退職して年金生活を送るようになったとき、果たして年金が満額支給されるのか非常に不安を感じているということです。
年金財政が厳しくなってきているので、もしかすると、自分が会社を退職するころには、年金の支給開始年齢がいまの65歳から一気に75歳ぐらいまでに引き上げられてしまうのではないか、あるいは、年金支給額そのものが4割ぐらい減額されてしまうのではないか。そういった不安が大きいので、収入があっても若いうちから将来不安に備えて自助努力で収入の多くを消費ではなく貯金に回していく。そういった若い世代が多くなってきています。こうした年金不安に備えて、貯金を多めにしておく必要があるのではないかということです。
もう一つ、先ほどのシミュレーションではもしものときの備えとして、とりあえず仮置きとして300万円を計上していましたが、長い将来を考えていくと、300万円では足りなくなってきます。中長期ではゼロが一つ足りないくらい、つまり3,000万円ぐらいの予備費が必要になってくるのではないかということです。
●医療費や介護費はどうなっていくのか
やはり長い将来を考えると、医療費や介護費の自己負担がこれから急激に上がってくる可能性が高いということです。そこで、医療にについて見ておきたいと思いますが、こちらに国民一人あたりの医療費をまとめています。
年齢が75歳未満の方は年間平均で約221,000円ですが、75歳以上になると一気に4.3倍に膨らみ、毎年約942,000円の医療費がかかってくるということです。
一方、医療費の自己負担がどうなっているかを見ると、会社を退職した後の収入によっても変わってきますが、69歳までは3割負担、70〜74歳は2割負担、75歳以上は1割負担ということで、医療費が必要になる年齢に差しかかるほど、医療費の自己負担は下がっていくという仕組みになっています。
そうすると、この先、社会の中で高齢者の割合が高まっていけば当然、国全体で見た国民医療費が大きく膨らんでいくことになってきます。ここに、国民医療費の長期的な推移をまとめていますが、1985年度では国民医療費は16兆円でしたが、2017年度には42.2兆円にまで膨らんでいます。厚生労働省の予測では、2025年度には53.3兆円にまで膨らんでくるということで、これから先も医療保険制度を維持していこうとすると、健康保険料の大幅な引き上げや、医療費の自己負担の引き上げが避けられなくなるのではないかということです。
また、介護保険については、医療保険以上に深刻な状況になってきています。最近よく「介護保険の2025年問題」という言葉を耳にしますが、これは2025年度になると、いまのボリューム世代といわれる団塊の世代の方たちが75歳を超える年齢に差しかかってきます。介護保険の一つの大きな特徴として、年齢が75歳を超えると一気に介護の給付が増えてくるので、団塊の世代の方が75歳を超える2025年度に介護保険が制度破綻してしまうのではないかという懸念の声が上がってきているということです。
介護保険制度をこのまま維持していこうとなると、将来的に介護保険料の大幅な引き上げ、あるいは介護給付の自己負担の引き上げというのが避けられなくなってくるのではないかということです。
そうすると、本当に余裕を持って老後の生活を楽しんでいこうとした場合には、1億円ぐらいの金融資産が60歳の時点で必要になってくるのではないかということです。ただ、現実的に60歳までに1億円の資産をつくるのは難しいので、年金以外の安定した収入を確保できるのであれば、ゆとりのある老後の生活を送っていけるのではないかということです。
●近い将来に予想されるインフレの時代
最後に、退職するまでにある程度の資産を蓄えて退職後も安定した収入を確保するにはどうすればいいのかということで、ここに四つの方法を示しています。「徹底した節約」「本業の収入をアップ」「副業・起業」「投資による資産運用」とあるうち、一番現実的で確実な方法は四つ目の「投資による資産運用」なのではないかということです。
ただ、それを考える前に、皆さんにぜひ念頭に置いていただきたいことがあります。それは、近い将来、2021年の終わりに日本の経済がインフレに転換する可能性が高いということで、インフレの時代とデフレの時代とでは、少しの差異がまったく変わってくるということがあります。
デフレという現象はお金の価値がモノに比べて上がっていく現象ですので、デフレの時代にはタンス預金で持っていても特に問題はありませんが、インフレといのはデフレとはまったく逆の現象で、放っておくとお金の価値がモノに比べてどんどん下がっていくことになります。ですから、インフレの時代には現金やタンス預金でお金を持つのはあまり得策ではないということになります。
一方、銀行預金について見ると、おそらく日銀は、日本がデフレから脱却した後もしばらくは様子見で低金利政策を取り続ける可能性が高いので、日銀の利息の収入よりも、インフレによる元本の目減りのほうが強く表れてしまう可能性が高いということで、銀行預金もインフレの時代にはあまり得策ではないということになります。
インフレの時代には皆さん自身のできる範囲でリスクを取っていただいて、株式や不動産などのリスク資産にも目を向け、ご自身の資産を分散して中長期で投資をしていくということがインフレの時代には重要になってくるのではないかということです。
●エネルギー政策にもリスク分散の視点を
このように分散して投資をするという考え方は、そのままエネルギー政策にも当てはまってくるのではないかということです。
いま日本のエネルギーの中には、石油や石炭、LNGなどの化石燃料、太陽光や風力発電、水力発電、バイオマス発電といった再生可能エネルギー、そして原子力発電という三本柱がありますが、これらのどれか一つに頼るというのは、リスク分散の観点からもリスクが大きくなってくるのではないかと思います。消費者の立場からも、電気代が上がっていくということになってしまうのではないかということです。
化石燃料の場合には、中長期で価格が上がっていく可能性が高いということと、化石燃料は温室効果ガスが出るので、環境面からもこれだけに頼るのは非常に問題が大きいということがあります。
それから再生可能エネルギーは、温室効果ガスを出さず、環境に優しいクリーンなエネルギーではありますが、ある程度コストがかかるということがあります。
再生可能エネルギーの場合には、電気料金の中に賦課金というのが含まれていますが、再生可能エネルギーの普及を促進するために、再生可能エネルギーで発電された電力を電力会社が固定価格で買い取って、その買い取った費用を国民の皆さまが電気料金という形で負担をするというものですが、この賦課金が年々上がってきています。
2012年度の段階では標準世帯で月62円ぐらいでしたが、2019年度には月885円にまで上がっていて、このままでいくと2030年度には月1,300円ぐらいかかってしまうということで、再生可能エネルギーが普及していく過程で電気代が上がるということが出てくるということです。
エネルギー政策を考える場合には、石油、石炭、LNGといった化石燃料、再生可能エネルギー、そして原子力発電というこの三つをバランス良くミックスさせて、分散して組み合わせていくことによって、日本全体のリスクを小さくして、電気代を安くする方向にもいくのではないかということです。
以上で私の話を終わらせていただきます。本日はありがとうございました。

≪講演会の様子≫