北海道エナジートーク21 講演録

エネルギー講演会
変化する国際関係とエネルギー情勢

(4-4)

●米中関係は「コールド・スター・ウォーズ」

 中国の「一帯一路」は、私は、実現しないと思っています。なぜかというと、中国に行っても誰も説明できない。これはスローガンだと考えます。でもこのようなことを中国は突然言い出したわけではなく、このプロジェクトはずっと前からありました。一度も実現しなかったものを集めたのが「一帯一路」です。

 なぜうまくいかないかというと、商業的にペイしないからです。ペイするなら、とっくに道路あるいは鉄道ができているはずです。でも、巨額の資金を入れて、人が住んでいない地域もあるのだから、それはペイするわけがない。実際に北京では、「一帯一路」と言う人はかつてほどいなくなっています。ただし、彼らも相当なお金を使っているから、一定の成果は出るかもしれません。

中国の海洋戦略

 そこで問題は、中国の海洋戦略です。人工島に大滑走路ができていますが、国際法上は、岩はどんなに埋め立てても岩です。島であれば領空、領海がありますが、岩には領海も領空もありません。それにもかかわらず、中国は軍事要塞化しているわけです。非常に大きな変化です。アジアではまだ冷戦があり、ある意味終わっていません。

 ソ連のときも同じでしたが、太平洋に出ようとすると、どうしても日本列島が邪魔なわけです。特にこの沖縄と宮古島の間。中国の場合は、ここからしか外に出られません。このあたりに海軍基地がありますから、外に出ようとすると沖縄を通らざるを得ない。つまり日本はとても邪魔な存在なわけです。政府ではなく人民解放軍の中では、第一列島線と第二列島線という考え方があります。第一列島線というのは、九州から沖縄、台湾の横とフィリピンを通って、南シナ海を通る線のことで、「これより内側に入ってこないでね」ということです。でも、これはただの海ですから、海に線を引かれても困るわけです。

 さらに第二列島線もあって、これは東京から小笠原諸島を抜けてパプアニューギニアまで行く線。「この線より内側は中国の海になりますから、アメリカさん、入ってこないでください」「太平洋は広いので、米中で割りましょう」というものです。もっと簡単に言うと「アメリカさん、もう日本から出て行って、ハワイに帰ってくださいよ」ということです。それでいいのかと言ったら、良くないわけです。

宮家 邦彦 氏 日本のシーレーンは中東まで行きますが、第一列島線、第二列島線とぶつかることになりますね。いまこれが最大の問題になっています。南シナ海の問題も、これらのごく一部でしかありません。そうすると、いま米中で起きていることは何なのか。「単なる貿易戦争だ」と言う人がいますが、私は全然違うと思っています。

 貿易摩擦というのは昔、日米でありました。一応、私は北米局にもいましたし、経済局にもいて、交渉も担当しました。アメリカ人にもいろいろな人がいまして、貿易の交渉をやっている奴らは本当に嫌な奴ですよ。だけど安全保障をやっている人たちは全然違う。所詮、日米はなんだかんだ言っても同盟国同士です。黒字は大きな問題ではあるけれど、それは一定の自制が働いたからです。

 しかし、米中は同盟国ではない。いま米中で起きていることは、大国間の覇権争いだと思っています。中国は完全に読み間違えたと思います。彼らはこう思ったのでしょう。「アメリカにまた変な大統領が出てきた。あれはちょろいよ。大豆を買って、ボーイング機を20機ぐらい買えば、黙るだろう。いままでもそれでやってきたんだから」。ところが、トランプ政権の前、オバマ政権の後半から、アメリカの対中政策というのは徐々に、しかもしっかりと変わっていきました。

 おそらく20世紀までは、中国はまだそんなに強くなかった。だからアメリカも日本もこう考えたわけです。「中国を資本主義化させよう。そして産業を興させよう。そうしたら中国の中に市民社会ができて、市民社会が中国の政治を変えるだろう。だからいまこそ、改革・解放をもっとやらなくてはいけない」と。90年代からこういう考え方でずっと、中国に投資をしてきたわけです。その企みというか読みが間違いだった。

 中国は、その改革・解放で資本主義化によって得た富を、中国共産党の投資と軍事力に使いました。その結果、中国の国内には市民社会ができなかった。だからいまの通りです。それをやっと、アメリカはわかったわけです。それだけならまだいいのですが、どうもこの数年、アメリカの人たちと話していると、中国に対する恐怖心が出てきています。もう単なる途上国ではない。13〜14億人がいて、ほとんど自由はなく、国家資本主義ではなく重商主義になって、アメリカの太平洋における覇権にチャレンジし、場合によってはアメリカに代わって東アジア地域でリーダーシップを執ろうとしている。そうした極めて大きな恐れを、私はこの数年間、ワシントンで感じました。アメリカは明らかに中国をつぶしに行っています。これは単なる貿易戦争ではありません。1930年代に、アメリカが日本に対して取った政策に似ています。自分たちの、東アジア、特に西太平洋地域における軍事的な政治的な覇権にチャレンジするアジアの新興国については、これをつぶすということです。

宮家 邦彦 氏 いまの状況が覇権争いだとすれば、落としどころなんかありません。いま閣僚級の交渉や覚書をつくっているかもしれませんが、解決するわけがない。アメリカは黒字を減らそうとしているわけではありません。中国の国のあり方、もしくは中国の経済のシステムそのもの、あるいは中国の国家運営の不適切さを問題にしているわけです。私はそれを「コールド・スター・ウォーズ」と呼んでいます。

 「スター・ウォーズ」という映画を観たことはありますか。あの中の「エピソード」は全部で9つです。「コールド・スター・ウォーズ」とは、ホットではないから。なぜかというと、中国は馬鹿じゃないのでアメリカに戦争なんか仕掛けません。仕掛けて負けたとたん、中国に対してものすごい経済制裁を科せられるでしょう。そうなると中国経済が終わることは明白ですから、そんなことは絶対にしません。

 アメリカも、中国大陸に戦争を仕掛けることはあり得ません。日本がやって失敗したでしょう。そんな戦争をアメリカはしません。お互いに“ホットウォー”は避けます。だから“コールドウォー”です。

 なぜ「スター・ウォーズ」かというと、「スター・ウォーズ」は特別編も入れたら13作もあります。私に言わせれば、「米中スター・ウォーズ」の「エピソード1」とは北朝鮮です。北朝鮮は米朝問題ではなくて、米中の覇権争いの「エピソード1」です。そして「エピソード2」は貿易戦争です。「エピソード3」は南シナ海問題。「エピソード4」は尖閣諸島問題かな。「エピソード5」は台湾かもしれない。「エピソード6」はチベットかな、ウイグルかな。という具合に、いくらでもあります。1年や2年で終わるわけがありません。私は10年、20年続くと思います。どちらが先に負けるか、我慢比べです。その戦争がついに始まりました。乞うご期待です。いまようやく「エピソード1」が佳境に入ってきているところです。これからまだまだ続きます。アメリカが中国に折れるわけはないので、相当に長い期間、対立は続くと考えていいと思います。

 ご清聴ありがとうございました。

講演のようす
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