北海道エナジートーク21 講演録

エネルギー講演会
変化する国際関係とエネルギー情勢

(4-2)

●メジャードライバーで国際情勢を読み解く

宮家 邦彦 氏 歴史には大きな流れがあって、どうでもいいこともあれば、非常に大事なこともあります。今後10年、20年、30年の歴史を決めるような大きな流れを私は「メジャードライバー」と呼んでいます。歴史の大きな流れを決める大事件を見抜くことが大事だと思っています。

 そこで、例えば読売新聞の「2014読者が選んだ10大ニュース」では、『エボラ出血熱でWHOが緊急事態宣言』が1位でしたが、私が注目したいのは『ロシアの「クリミア共和国」国家承認、編入』、これは非常に重要です。

 冷戦時代はソ連とアメリカが戦ってソ連が負けた。それで新しい欧州ができた。冷戦後の欧州の新しい勢力バランスがあったのに、それをロシアがひっくり返した。極めて大きな事件で、いまも尾を引いています。ロシアはこれに対する経済制裁でまだ苦労しています。

 次に中東問題。何といってもイラクの扇動失敗です。イラクを壊してしまった。私は2003年に北京にいました。私の同僚の外交官2人がイラクで殺され、代わりにイラクへ2004年に行ったのでよく覚えています。戦争には勝ったけれども、国の再建に失敗しました。そして今度はシリアも壊してしまった。これはすごく大きな事件です。中東の安定は当分帰ってこないでしょう。その意味で、イラクの扇動失敗は始まりであります。

 また、関連してイランの核合意が2015年にありましたが、イランが核兵器を放棄するわけがありません。北朝鮮も同じです。残念ながら2015年にできた核合意はトランプ大統領が破棄してしまいましたが、失敗する運命にあったと思っています。核の拡散の時代が始まったということです。また、中国では、軍事拠点の構築を進める南シナ海の問題がありますが、のちほど詳しくお話しします。

 そして2016年の10大ニュース。私は多くのことがこの年に変わったと思っています。『米大統領選でトランプ氏勝利』『英国民投票で「EU離脱」過半数』が1、2位で、トランプさんの勝利というのも大きいニュースで米朝首脳会談も注目されています。 2016年に何が起きたかというと、私が一番感動したのは、オバマさんの広島訪問です。これは非常に良かった。

講演のようす

 それから、この直前に伊勢志摩サミットがありました。G7サミットといって、7人のリーダーがそろいましたが、7人のうち既に5人いません。わずか2年半前ですよ。誰がいなくなったか。最初は英国のキャメロン元首相です。イギリスのEU離脱宣言をして失敗して失脚。次は8年間大統領のオバマさん。その次がイタリアのレンツィ元首相。憲法改正をしようとして国民投票をしたら負けて失脚。その次のフランスのオランド元首相は内政で失脚。そうすると、この時点で残っているのは、日本の安倍首相、ドイツのメルケル首相、カナダのトルドー首相です。

 このあと何が起きるかというと、1位に選ばれたトランプさんが大統領に選ばれてしまう。そしてまもなくメルケル首相もいなくなるでしょう。安倍さんは6年以上やっていますが1人だけ残っているわけです。なぜこういうことが起きるかというのが、今日の話のポイントの一つです。

●欧米に見るダークサイドの逆襲

 アメリカに共和党はいくつかありますか。では、民主党はいくつありますか。民主党はアメリカに50個あります。共和党も50個あります。各州にあります。場合によっては、名前が微妙に違います。独自の歴史があるからです。そして、アメリカの大統領選挙は面白いもので、昔流行った「合体ロボ」ってあるでしょう。4年に1回、アメリカの50の民主党と50の共和党は合体競争をします。部品がそれぞれ50個あって、ナントカ戦隊ロボみたいにガチャン、ガチャンと合体して動くようになれば勝てるわけです。だから50の州がバラバラだと負けてしまう。そうするとトランプさんはあれだけ評判悪いけど、共和党の支持者の中ではまだまだ強いわけです。共和党の合体ロボは間違いなくトランプの下で一つになるでしょう。問題は民主党です。民主党は百家争鳴かもしれない。いろんな人が出てきて言いたいことを言っている。いまのままではバラバラです。だからいまの段階で私が言えるのは、2020年にトランプさんが勝ってもおかしくないということ。それでいいのかという話ではありますが。

 1970年代、80年代は圧倒的に白人が多い。ところが2050年になると白人がマイノリティーになる。この恐怖感がトランプ現象を生んだのだと思います。そして平均収入もアジア系がいま一番高い。その意味では、白人男性、ブルーカラー、低学歴の人たちの恐怖感はものすごく強いと思います。

  では、これはアメリカだけの現象なのかというと、そうではない。欧州でも台頭しています。伊勢志摩サミットに出てきた首脳で一番先に辞めたのはキャメロンですね。彼はなぜ辞めたかといえば、ブレグジット(イギリスのEU離脱問題)でしょう。ブレグジットとは、簡単にいえば、イギリスのダークサイドの逆襲です。「EUに入れと言うから入ったけれど、ヨーロッパの変な奴らが俺たちの将来を決めるとは何だ」「ムスリムがどんどん入ってきて、テロをやるようになって何だ」と。でも、これはとても不健全ですね。

宮家 邦彦 氏 私に言わせれば、トランプ現象もEU離脱もまったく同じ現象です。反グローバリズムの層。いままでうまくいっていたと思っていた欧米の中産階級が没落していきます。日本も似たようなところがないわけじゃありませんが。共産主義に対抗するためにこちらは資本主義だけれども、資本主義を修正して、富の再分配をして、所得をある程度平準化させる。それによって社会を安定させたわけです。ヨーロッパも日本もそれをやって、だからうまくいった。ところが、ソ連が崩壊してアメリカが一人勝ちしたら、どうなりましたか。これからはグローバリゼーションだ、規制緩和だ、マーケットだ、効率だ、と言った。その結果、弱肉強食の資本主義がまた復活しました。

 弱肉強食の資本主義とは、ほんの一握りの勝者とおびただしい数の敗者を生むシステムですよね。ですから格差がどんどん広がるのは当たり前です。すると、おびただしい数の若者の敗者はどこへ行くかというと、ナショナリズムに行きます。ヨーロッパの場合は極右政党です。こうやって、ダークサイドがアメリカやヨーロッパを席捲しています。逆をいえば、こうしたダークサイドをきちんとコントロールできる国は長期政権です。安倍政権もそうだし、メルケルさんも13年続いています。でもメルケルさんももう危なくなっている。日本は大丈夫なのでしょうか。

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