北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

'12新春フォーラム『日本のエネルギーを考える』
【第一部】 基調講演「世界情勢とエネルギーの安全保障」

(3-3)

日本に迫る資源競争の激化

 

 さて、いま二つのことをお話ししました。一つは主要国のバランスが変わっていくという問題。そして中東湾岸やロシアのように政情の不安定な国がエネルギーの主要供給国になっているために価格変動が避けられない中で、日本は原発を減らす分だけ化石燃料を確保しなければならないという問題です。

 数十年間、日本のエネルギー政策における最大案件はエネルギー安全保障でしたが、福島第一原発事故以降、この考えはどこかへ行ってしまいました。いま経済産業省で行われている議論は、原子力エネルギーを減らす分をどのエネルギーで補っていくかということです。現実には、いまこそエネルギー安全保障を真剣に考えなければいけないわけで、問題の本質が相当ずれているように思います。

 いずれ世界中の国が経済成長をするためにはどうしてもエネルギー資源が必要ですから、中東湾岸あるいは非OPEC国にエネルギーの大半を依存している国、特に日本のように大きな国にとっては、エネルギーの供給元と価格変動、これから起こり得るエネルギー競争の激化などが、国家の産業や我々の日常生活に非常に深く関わってくるだろうと思います。

 さらに我々の周りでは、中国が資源を求めて海洋に出てきて、東シナ海の油田開発や南シナ海の領有権問題、尖閣諸島の領有権問題などが起きています。

 ちなみに、国際法にてらしてみて違反行為はしたくないけれども、自国の利益を強調して権利を手に入れる方法を考えた場合に、国際法では曖昧な部分であり、国家が進出していける分野は三つあります。一つが海洋です。海洋は、国連海洋法条約に基づいて領海12カイリにだけ主権が及びますが、それより遠方は排他的経済水域といいます。経済利権はありますが、国家のあらゆる主権があるわけではない。少なくとも領海の外は一般公海で、いわば国道のようなものです。誰が通っても良いが誰のものでもない、だから出てきた方が勝ちという状態が起こっているということです。しかも「南シナ海、東シナ海のすべての島は自分の国の領土だ」と言い放っている中国が、海洋に海軍力を出してきて領有権を主張し、他国に対して武力行動をやるという状況が起きています。それをいかにして防ぐかが、日米にとって非常に重要な安全保障政策になりつつあります。

森本 敏 氏  東シナ海、南シナ海以外に、これから一番大事なのは北極海です。北極海は、2000年の歴史の中で昨年初めて15%以下の氷結状態になり、自由航行ができる海になりました。このままいくと2030年には一年を通じて自由に通れる海になり、太平洋、大西洋、インド洋などと並ぶ新しい海洋として資源の争奪戦が始まっています。

 中国の海洋専門家が書いた論文があって、これによると、上海から日本の海岸を通ってカムチャッカ半島の沖合を通り、北極海、ベーリング海から入って北極海を抜けると、ヨーロッパとアメリカ東海岸の最短の航路ができます。最近ロシアが極東に軍事力を強化している理由を考えると、日本や中国やアメリカがその航路で北極海に入っていった場合にロシア極東の沖合を通ることを非常に警戒しているのではないかと思います。そうでなければ、あの北方領土に対艦ミサイルを配備する必要はないと思います。

 先に日本が決めた防衛大綱にあるように、日本の防衛力を南西方面にずらして中国を食い止めるという単純なものではなく、北極海に向かう極東の部分、つまり日本から見ると、北方領土からカムチャッカ半島に渡る海域をどうやって安定させるかということも同時に考えなければならないと思います。

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原子力に対する3つの評価軸

 

 さて、このあと第2部での最も重大なテーマは、福島第一原発事故以降の世界の原子力エネルギーをどのように考えるかということです。この原発事故を受け、国際社会では原子力の安全管理についてあらためて注目が集まったわけですが、原子力エネルギーそのものに重大な影響を与えたかというと必ずしもそうではなく、世界の原子力エネルギーに対する見方はおそらく3つのグループに分けられるだろうと思います。

 第1のグループは、この事故にも関わらず原発を続けるべきだと考えている国。これは国連安保理の常任理事国であるアメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランスの5カ国以外にもヨーロッパの国がいくつかあり、これらの国は極めて厳しい安全管理のもとで原発を進めようとしています。特に中国は原子力開発をこれから相当に増やし、このままいくと2030年ごろに400基近い原発が中国国内にできると予想されます。その大半は日本海周辺の海域に設置されると考えられています。

 第2グループは、今回の事故を受けて少なくとも原発をやめようとした国です。特にドイツは明白です。イタリアやスイスは事故があったからやめたのではなく、増設計画をやめるという形で徐々に原子力エネルギーを減らそうとしています。正確に言えば、世界の中で福島第一原発事故を契機に原発をやめたのは、ドイツと日本の浜岡原発だけではないかと考えています。

 第3グループは、この事故にも関わらず、これから新たに原発を導入しようとしている国です。アジアではベトナムのほか、ASEANの国がいくつかあります。これらの国は、自国が経済発展をするためにエネルギーを中東湾岸に依存するのでは不十分だと考え、原子力の道を進もうとしています。それ以外に中東湾岸ではヨルダンやトルコなど、政情不安定の中で原子力に乗り出そうとする国もあります。

 我々は、日本のエネルギーが国家の産業と我々の生活にいかなる意味を持っているかについて、国益を考えながらできるだけ冷静に判断し、選択していかなければなりません。

 世の中というのは不思議な巡り合わせで、最も安定した国から資源が得られればいいのに、最も不安定な国に資源を求めなくてはならないという非常な難問に我々は直面しています。国際社会が極めて厳しい資源競争に入っていくことは避けられず、その中で日本は将来のエネルギーについて有り得べきシナリオを考え、ベストミックスを選択しなければならないと思います。

 以上、いくつか基本的な問題点を選択してお話ししました。ご清聴いただきありがとうございました。

 

講師   森本 敏氏
  拓殖大学大学院 教授、海外事情研究所長  
  森本 敏 (もりもと さとし) 氏  
略歴  
  1941年 東京都生まれ。専門は、安全保障、国際政治。外務省で在米日本国大使館一等書記官、情報調査局安全保障室長。退官後、野村総合研究所、PHP総合研究所などを経て現職。『米軍再編と在日米軍』『普天間の謎-基地返還問題迷走15年の総て』など著書多数。最新刊は『それでも日本は原発を止められない』(共著)。  

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