第1部では、第2部で議論するエネルギー問題の背景となる国際情勢について、主としてエネルギーの側面から見た場合に何を考えるべきかということについてお話ししたいと思い
ます。
国家の発展プロセスには「プリモダン」「モダン」「ポストモダン」という3つの段階があります。その基本は「モダン」です。これは18世紀末にイギリスで起こった産業革命を経て、エネルギーを使うことによって発展した工業が国家の中心的産業になっている国のことです。
そこにはまだ至っていない国を「プリモダン」といい、第1次産業である農業や水産業が中心の国を指します。私は外交官時代にアフリカ大使館に勤務したことがありますが、南アフリカとエジプトの一部を除けば、アフリカにある53の国の多くはプリモダンです。プリモダン国は中南米の一部や南アジア、南西アジア、中東湾岸にもあります。
そうしたプリモダン国が工業を中心とする国に発展すると「モダン」国といいます。
モダンよりもさらに発展した国を「ポストモダン」といいます。工業よりも情報産業が国家の産業の中心を占める国のことです。日本がポストモダンといえるかどうかは微妙で、政治的にモダンになっていないという評価もありますが、アメリカ、カナダ、ヨーロッパのNATO・EU諸国、豪州・NZはポストモダンだと思います。
そのように、プリモダン国は多くがまだ第1次産業の中心なので、世界人口70億人のうち概ね13〜15億人は電気をまったく使わずに生活をしているということです。一方、モダン国は産業革命を経てから約150年の間、工業を興すためにエネルギーを使ってきました。
世界の1次エネルギー消費を見ると、概ねの構成比ですが、石油30%、石炭30%、天然ガス30%弱。残り10%が原子力と再生可能エネルギーです。ということは、世界ではまだまだ石油や石炭、天然ガスがエネルギーの中心になっているわけです。
我々の生活を振り返ってみると、たとえば飛行機の燃料はガソリンで、原子力や電池で飛べる飛行機はまだありません。船も9割以上が石油です。アメリカの原子力空母や原子力潜水艦などもありますが、船も飛行機も多くは石油を必要としています。車ももちろんそうです。最近は電気自動車が流行っていますが、まだ世界のすう勢になっていません。依然として石油中心の時代が続いています。
そうした中で、第2次世界大戦が終わる1945年ごろにアメリカで原子爆弾が開発され、1951年に実験炉の中で初めて原子力発電ができ、これが実用化されたのが1953年、当時のソ連においてでした。続いてイギリス、アメリカと1950年代半ばに原子力が初めてエネルギーの中に加わってきました。日本では1955年に原子力基本法が施行され、商用の原子力発電所ができたのは10年後の1965年でした。現在では世界約30カ国で436基の原子力発電所が稼動し、このほかに現在建設中もしくは計画中のものが166基といわれています。 |