北海道エナジートーク21 講演録

 
トップページへ
 
組織紹介
事業計画
行事予定
活動内容
入会案内
講演録
会報誌
リンク集
ご意見・お問い合せ
 
エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

'12新春フォーラム『日本のエネルギーを考える』
【第一部】 基調講演「世界情勢とエネルギーの安全保障」

(3-1)

'12新春フォーラム『日本のエネルギーを考える』 【第一部】 基調講演 「世界情勢とエネルギーの安全保障」
 

  拓殖大学大学院 教授、海外事情研究所長 森本 敏 (もりもと さとし) 氏
     

国家の発展に欠かせないエネルギー

 

森本 敏 氏 第1部では、第2部で議論するエネルギー問題の背景となる国際情勢について、主としてエネルギーの側面から見た場合に何を考えるべきかということについてお話ししたいと思い ます。

 国家の発展プロセスには「プリモダン」「モダン」「ポストモダン」という3つの段階があります。その基本は「モダン」です。これは18世紀末にイギリスで起こった産業革命を経て、エネルギーを使うことによって発展した工業が国家の中心的産業になっている国のことです。

 そこにはまだ至っていない国を「プリモダン」といい、第1次産業である農業や水産業が中心の国を指します。私は外交官時代にアフリカ大使館に勤務したことがありますが、南アフリカとエジプトの一部を除けば、アフリカにある53の国の多くはプリモダンです。プリモダン国は中南米の一部や南アジア、南西アジア、中東湾岸にもあります。

 そうしたプリモダン国が工業を中心とする国に発展すると「モダン」国といいます。

 モダンよりもさらに発展した国を「ポストモダン」といいます。工業よりも情報産業が国家の産業の中心を占める国のことです。日本がポストモダンといえるかどうかは微妙で、政治的にモダンになっていないという評価もありますが、アメリカ、カナダ、ヨーロッパのNATO・EU諸国、豪州・NZはポストモダンだと思います。

 そのように、プリモダン国は多くがまだ第1次産業の中心なので、世界人口70億人のうち概ね13〜15億人は電気をまったく使わずに生活をしているということです。一方、モダン国は産業革命を経てから約150年の間、工業を興すためにエネルギーを使ってきました。

 世界の1次エネルギー消費を見ると、概ねの構成比ですが、石油30%、石炭30%、天然ガス30%弱。残り10%が原子力と再生可能エネルギーです。ということは、世界ではまだまだ石油や石炭、天然ガスがエネルギーの中心になっているわけです。

 我々の生活を振り返ってみると、たとえば飛行機の燃料はガソリンで、原子力や電池で飛べる飛行機はまだありません。船も9割以上が石油です。アメリカの原子力空母や原子力潜水艦などもありますが、船も飛行機も多くは石油を必要としています。車ももちろんそうです。最近は電気自動車が流行っていますが、まだ世界のすう勢になっていません。依然として石油中心の時代が続いています。

 そうした中で、第2次世界大戦が終わる1945年ごろにアメリカで原子爆弾が開発され、1951年に実験炉の中で初めて原子力発電ができ、これが実用化されたのが1953年、当時のソ連においてでした。続いてイギリス、アメリカと1950年代半ばに原子力が初めてエネルギーの中に加わってきました。日本では1955年に原子力基本法が施行され、商用の原子力発電所ができたのは10年後の1965年でした。現在では世界約30カ国で436基の原子力発電所が稼動し、このほかに現在建設中もしくは計画中のものが166基といわれています。

ページの先頭へ

国際社会の動きとエネルギーの潮流

 

森本 敏 氏 国際社会におけるここ数十年のエネルギーの歩みを振り返ってみます。

 原子力が登場したのは1950年代半ばから60年代ですが、70年代に2回の石油危機が起こったことで、先進諸国の中で原子力があらためて見直されるようになりました。70年代になると原子力発電所は世界で急速に増えましたが、1979年のスリーマイルアイランド事故によって、原子力に対して冷めた見方が世界に広がっていきました。さらにその後のチェルノブイリ事故を受け、80年代には原子力発電所の増加が足踏み状態になりました。

 また、エネルギー問題からみると、2回の石油危機が起こったことにより、それまで主要産出国だった中東諸国以外の地域の石油が注目を浴び始めました。中南米のベネズエラ、あるいは北海油田、ロシアの資源エネルギー、アフリカの石油などが世界の注目を浴び、こうした非OPEC国の資源開発が進んだのが80年代でした。

 ところが90年代になると、地球温暖化という別の問題がエネルギーと密接に関わるようになり、地球温暖化の進行を何としても防がなくてはならないという国際社会の合意が徐々に形成されていきました。地球の平均気温の上昇をできれば2℃以下に抑えたいというのが現実的な目標になりつつあり、このままのエネルギー事情が続けば、2℃どころか6℃近い上昇が今後20年間に起こるかもしれないという状況になっています。国際社会の協力によって地球温暖化を何とか解決していくことが、人類にとって非常に大きな課題であるといえます。

 そうした中で、10年ぐらい前から深刻な問題になっているのが新興国の台頭です。特に中国やインド、ASEAN諸国などアジアの新興国の経済発展が著しく、資源の需要がどんどん増えて地球のバランスが崩れかかっています。従来は米欧諸国が中東湾岸のエネルギーの約7割を消費していたのですが、この10年に、アジアの国々が米欧に代わって中東湾岸のエネルギーを消費し、結果として資源エネルギーの価格がどんどん上がってきました。80年代、石油の安定価格とされていたのは1バレル20〜25ドルですが、いまは100ドルを超え、元に戻りそうにない状況です。

 さらに近年、石油や石炭などの化石燃料に加え、最近アメリカで生産が進んでいるシェールガス(頁岩から採取される天然ガス)など、新しいタイプの天然ガスが世界的に注目されつつあるというのも今日の潮流です。

 こうして過去50年くらいを見ると、10年ごとにエネルギー資源のウエイトが目まぐるしく変化しているのがわかります。このままあと20〜30年経つと、石油や石炭に代わって天然ガスの割合が高まり、その中で原子力の位置づけがどう変わるかによって、世界のエネルギーの潮流が決まっていくのではないかと思います。

ページの先頭へ
  1/3  
<< 講演録トップへ戻る (1) (2) (3) 続きを読む >>