北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

'12新春フォーラム『日本のエネルギーを考える』
【第一部】 基調講演「世界情勢とエネルギーの安全保障」

(3-2)

ロシアの動向に見るエネルギー事情

 

 国際情勢をエネルギーの面から考えた場合、今日のエネルギー事情を特徴づける要点がいくつかあります。

 第一に、いままで世界ではアメリカが圧倒的な力を持っていて、アメリカとヨーロッパの国々がエネルギーの一大消費地域でしたが、アメリカの国力が衰えるにつれ、中国やインドなどの新興国がどんどん勢いを増してきました。中国とインドのエネルギー資源の消費量は、おそらく2030年ごろには日本とアメリカの合計を超え、2020年には、中国の原油消費量が世界第1位になると予想されています。つまり、エネルギー消費量から見て、主要国のバランスが構造的に変化しつつあるということです。

 第二は、エネルギー資源の供給地域が極めて深刻な政情不安にあるということです。

 ここで、北海道と距離的に近いロシアについてお話ししようと思います。3月4日にロシアの大統領選挙がありますが、立候補を決めたプーチン以外に有力候補がいないので、プーチン大統領が再び政治の前面に登場することになるでしょう。アメリカもロシアも、大統領は2期務めたら次は立候補できません。アメリカはそれで終わりですが、ロシアは1回休めば再び立候補できるという不思議な制度です。

森本 敏 氏  いままでのロシアは「タンデムの政治」といわれてきましたが、タンデムとはロシア語で二人乗り自転車のことです。プーチン大統領は2期務めて退くときにメドベージェフを連れてきて大統領選挙に勝たせ、自分を首相に命じさせて自転車の後ろで国家戦略を決め、前の席に座っているメドベージェフがハンドルを握っているという構図です。メドベージェフは独自のカラーを出したいけれども、後ろにプーチンがいることには変わりなく、結局2人で自転車をこいできました。でも支持率はプーチンのほうが上ですから、プーチンはメドベージェフをあきらめ、自分が大統領に返り咲くつもりなのでしょう。

 ちなみに、ロシア国民が描く国家のリーダー像には矛盾があります。ロシアは冷戦時代にアメリカと並ぶ超大国でしたから、国民にはその地位をもう一度取り戻したいという感情があります。それには強いリーダーが必要ですが、独裁者的なリーダーは欲しくない。この感情には大きな論理矛盾がありますが、その間を埋めるのがプーチンなのです。彼に政治哲学や信条があるとは思えませんが、オバマ大統領とよく似た状況判断型の管理者で、政治家というよりマネージャーとしての性格を持つ現実主義者です。今回もプーチンが当選するでしょうが、昨年末のロシア下院議会選挙後はプーチンへの支持は以前ほどではなく、極めて難しい政権運営を迫られると思います。

 ロシアは冷戦後に西側の技術が入って石油・天然ガスが出るようになり、石油はサウジアラビアに次ぐ世界第2位、天然ガスはアメリカに次ぐ第2位という資源大国です。しかも、石油と天然ガスの価格が上昇しているので外貨が多額に入り、その財源を国家の歳出に回して国民の支持率を稼いでいるというのがプーチンの政治です。しかし、石油も天然ガスもいつかはなくなります。

 ロシアの資源は欧州部から出ているのがほとんどで、海の向こうから出るわずかな資源は、サハリン2プロジェクトと東シベリアのガス油田です。今年のAPECは9月にウラジオストクで行われる予定ですが、これはプーチンが3年前に計画したものです。ロシアにとって極東部の資源開発は非常に重要で、国家財政を支えるためにも不可欠の政治課題です。できればアジアから外資を導入し、出た資源はアジアに売って外貨を稼いでロシア経済を維持しようというのがプーチンのやり方ですから、そういう意味では、ウラジオストクでAPECを開催するねらいは明らかです。

 おそらくプーチンが当選したら、資源エネルギー問題で日本に手を出してくるでしょうが、だからといって我々は、領土問題で前進するという幻想を持ってはならないと思います。仮に領土問題で日本と外交交渉を行ったとしても、権限を発揮しにくいプーチンがロシア下院の承認を取ることは極めて難しいからです。

 我々にとっては、日露間で領土問題を棚上げしつつ資源問題だけを進めることが、どれだけ日本の国益になるかを冷徹に判断しなければなりません。したがって、政情の不安定なロシアの資源をわが国が安定的に手に入れるということを軽々しく考えるべきではないと思います。あまり渇望するとロシアに意図を見破られ、日本は利用されるだけかもしれません。

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イランを取り巻く世界の動き

 

 さて、中東湾岸では、かつてない大規模反政府デモなど民主化運動の波が昨年1月から始まっており、これは「アラブの春」と呼ばれています。これは違和感のある言葉なので「アラブの覚醒」とでも呼ぶほうがしっくりきます。おそらく今後10〜15年は続くと思われ、まだ先は見えません。

 深刻なのは、シリアが本当に政権を維持できるのかという問題や、2回にわたるエジプトの議会選挙でムスリム同胞団勢力からなる2つの政党が圧勝したことが、6月のエジプト大統領選挙にどんな影響を与えるかということ、ヨルダンやバーレーンの政情、サウジアラビア国王も高齢ですし、中東湾岸はなかなか政情が安定しません。この地域が依然として石油・天然ガスの大供給地域であるということを考えると、大変難しい問題があります。

基調講演の様子  その中で、イランのことを少しお話ししようと思います。世界でいま一番厄介なのはイラン問題です。イランは石油産出額が世界第6位であるにも関わらず原発を進めており、あくまで平和利用として使うと言っています。なぜ石油があるのに原子力を進めるかについて、イランの説明では「石油は海外に売って外貨を稼いで経済発展をするために必要なのであって、国内で必要なエネルギーは主として原子力に依存したい」ということです。そこで、イラン政府が2003年にはやめていたと言われる原子力開発を実際は、その後、再開したかどうかが世界の注目を集めています。

 昨年11月8日、IAEAが出したイランの核開発問題に対する疑惑を詳細に記した報告書の内容は国際的に大きな衝撃を与えましたが、アメリカはこれを国連に持ち込むことをやめました。なぜかはわかりませんが、2003年に起きたイラク戦争のように、イラクの核開発問題を国連安保理に持ち込んだところで、その物的証拠について安保理常任理事国に十分に説明できなければ、中国とロシアから反対されて決議ができなくなってしまう。そんなまわりくどいやり方ではなく、アメリカは独自の制裁をやろうと昨年12月31日、国防権限法を成立させました。

 これは、イラン中央銀行と取引している金融機関を持つ国がイランから原油を買っている場合、アメリカ系の金融機関との取引を中止することを定めた法律で、事実上イランから原油を買えない状態になるわけです。この法律は、このままいくと今年6月末から発効することになりますが、イランから石油輸入量を著しく減らした国については適用を除外とするとしており、この適用除外を120日以内にアメリカ政府が決定することになっています。

 EUはこのことを受け、まもなく1月末に行われる外相会議・首脳会議において、EU諸国はイランからの原油輸入を禁止するという措置を7月から実行しようとして、アメリカに同調しています。

 また、アメリカは中国に行って同調を求めましたが拒否され、日本と韓国に来ました。2週間前の1月12日、ガイトナー財務長官が日本に来て安住財務大臣と会談したあと、安住氏が「イランからの原油の輸入をこれから減らしていく」と、アメリカの要望を受けた表現で記者会見をしましたが、総理が直ちに「これは安住大臣の個人的見解だ」と切り捨て、官房長官は「政府はまだ決めておりません」と水をかけ、政府部内の意見が統一されていないことが露呈したばかりです。

 しかしながら、日本が輸入している原油の約10%はイランから買っています。これをあきらめるには他に手段が必要で、サウジアラビアやオマーン、アラブ諸国連邦などに要請しているわけです。いまのところ、幸いにもサウジアラビアが好意的なので何とかこの10%をまかなえそうですが、このままいくと日本の原発はどんどん減っていき、2011年の化石燃料の輸入額は2010年の倍近くだといわれていますから、イランから原油を買えなくなる分を今後どうやって補っていくかが、日本にとって非常に重大な問題であります。

世界を脅かすイランの核兵器問題

 

 他方、イランは米欧の制裁に断固反対しており、ペルシャ湾内で海軍演習を行いながら、ホルムズ海峡を封鎖するという脅かしをかけています。これに対抗するためにアメリカは空母2隻、イギリスも駆逐艦をペルシャ湾に送って牽制しています。

森本 敏 氏  アメリカは今年11月6日に行われる大統領選挙一色になっていて、特に共和党の候補などは、大統領になったら次の日にでもイラン攻撃をするようなことを平気で言って、国民の人気をさらっています。イラクに続いてアフガンからも手を引かざるを得なくなっているアメリカからすれば、イランが核開発に成功して中東湾岸に絶大な影響力を持つことは何としても避けたいわけです。あるいは、イランが持っている弾道ミサイルに加え核兵器も持っているとすれば、中東湾岸だけでなくヨーロッパに脅威を与えることになるので、東ヨーロッパにミサイル防衛を配備して何とか食い止めようとしています。そのようにアメリカは、地域の大国がアメリカと覇権を争うような状況になることがどうしても受け入れられないわけです。これは宗教ではなく、そういった国家戦略的な考え方がアメリカにあるのだろうと思います。

 しかし、イランは猛然と反対していて、「IAEAの報告書はでっち上げであり、これは2カ国から取ってきた情報に基づいて作られたねつ造報告だ」と言っています。2カ国とはアメリカとイギリスに決まっていますが(笑)。IAEAの事務局長は日本人の天野大使なので、英米の手先となっているIAEAが2カ国の情報を基にイランを攻撃するための報告書を書いている、というのがイランの言い分です。

 アメリカもイランもお互いにきちんと対話しようという考え方が見られませんから、このままいくと衝突の危機を迎えるのではないかと気になっています。そもそも1979年、イラン革命が成功したときにアメリカの外交官が人質になって以来、アメリカとイランとの外交関係は途絶したままです。双方は大使館を持っていません。日本はイランと非常に良い対話ができる関係にあるので、これを失いたくないんですが、だからといってイランの核兵器が現実になってしまうことは何としても避けたいと思っている。しかし、目の前のエネルギー問題をどうやって調和させたらいいかということに、日本政府は思い悩んでいる状況だと思います。

   さらに、この問題ではイスラエルとの関係が非常に厄介です。イラン大統領のアフマディネジャドは「世界地図からイスラエルを消し去る」と繰り返し言っています。イランが核兵器を持ったときのイスラエルの命運を考えた場合、かつてイスラエルがイラクやシリアの原子炉を攻撃したように、国家の生存をかけてイランの核開発を核実験直前に攻撃するという懸念は依然として残っています。

 これをやられるとホルムズ海峡は止まってしまい、日本は約10%のイランからの原油が手に入らないだけでなく、ホルムズ海峡を通って入ってくる残り80%の原油も止まってしまうという重大な危機に陥ります。原油の価格も、いまは110ドルぐらいですが、専門家の見積もりによると150〜200ドル近くなるだろうということで、とんでもない値段に跳ね上がってしまいます。

 その点、中国はしたたかです。アメリカの要求を蹴飛ばしながら、イランに対して「あなたの国の原油を買う国は今後ほとんどなくなるから、もっと安く売れ」と安値で叩き買って、マージンを付けて他国に売るということをおそらく考えるでしょう。その一方で、サウジアラビアには温家宝首相が行って他の手段をまとめるという、極めてしたたかな外交を行っているわけです。

 イランを取り巻くこうした問題は、中東湾岸のことよりもずっと深刻な問題として扱われ、今年5月にシカゴで行われるG8サミットでも最大案件になることが避けられない状況です。

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