国際情勢をエネルギーの面から考えた場合、今日のエネルギー事情を特徴づける要点がいくつかあります。
第一に、いままで世界ではアメリカが圧倒的な力を持っていて、アメリカとヨーロッパの国々がエネルギーの一大消費地域でしたが、アメリカの国力が衰えるにつれ、中国やインドなどの新興国がどんどん勢いを増してきました。中国とインドのエネルギー資源の消費量は、おそらく2030年ごろには日本とアメリカの合計を超え、2020年には、中国の原油消費量が世界第1位になると予想されています。つまり、エネルギー消費量から見て、主要国のバランスが構造的に変化しつつあるということです。
第二は、エネルギー資源の供給地域が極めて深刻な政情不安にあるということです。
ここで、北海道と距離的に近いロシアについてお話ししようと思います。3月4日にロシアの大統領選挙がありますが、立候補を決めたプーチン以外に有力候補がいないので、プーチン大統領が再び政治の前面に登場することになるでしょう。アメリカもロシアも、大統領は2期務めたら次は立候補できません。アメリカはそれで終わりですが、ロシアは1回休めば再び立候補できるという不思議な制度です。
いままでのロシアは「タンデムの政治」といわれてきましたが、タンデムとはロシア語で二人乗り自転車のことです。プーチン大統領は2期務めて退くときにメドベージェフを連れてきて大統領選挙に勝たせ、自分を首相に命じさせて自転車の後ろで国家戦略を決め、前の席に座っているメドベージェフがハンドルを握っているという構図です。メドベージェフは独自のカラーを出したいけれども、後ろにプーチンがいることには変わりなく、結局2人で自転車をこいできました。でも支持率はプーチンのほうが上ですから、プーチンはメドベージェフをあきらめ、自分が大統領に返り咲くつもりなのでしょう。
ちなみに、ロシア国民が描く国家のリーダー像には矛盾があります。ロシアは冷戦時代にアメリカと並ぶ超大国でしたから、国民にはその地位をもう一度取り戻したいという感情があります。それには強いリーダーが必要ですが、独裁者的なリーダーは欲しくない。この感情には大きな論理矛盾がありますが、その間を埋めるのがプーチンなのです。彼に政治哲学や信条があるとは思えませんが、オバマ大統領とよく似た状況判断型の管理者で、政治家というよりマネージャーとしての性格を持つ現実主義者です。今回もプーチンが当選するでしょうが、昨年末のロシア下院議会選挙後はプーチンへの支持は以前ほどではなく、極めて難しい政権運営を迫られると思います。
ロシアは冷戦後に西側の技術が入って石油・天然ガスが出るようになり、石油はサウジアラビアに次ぐ世界第2位、天然ガスはアメリカに次ぐ第2位という資源大国です。しかも、石油と天然ガスの価格が上昇しているので外貨が多額に入り、その財源を国家の歳出に回して国民の支持率を稼いでいるというのがプーチンの政治です。しかし、石油も天然ガスもいつかはなくなります。
ロシアの資源は欧州部から出ているのがほとんどで、海の向こうから出るわずかな資源は、サハリン2プロジェクトと東シベリアのガス油田です。今年のAPECは9月にウラジオストクで行われる予定ですが、これはプーチンが3年前に計画したものです。ロシアにとって極東部の資源開発は非常に重要で、国家財政を支えるためにも不可欠の政治課題です。できればアジアから外資を導入し、出た資源はアジアに売って外貨を稼いでロシア経済を維持しようというのがプーチンのやり方ですから、そういう意味では、ウラジオストクでAPECを開催するねらいは明らかです。
おそらくプーチンが当選したら、資源エネルギー問題で日本に手を出してくるでしょうが、だからといって我々は、領土問題で前進するという幻想を持ってはならないと思います。仮に領土問題で日本と外交交渉を行ったとしても、権限を発揮しにくいプーチンがロシア下院の承認を取ることは極めて難しいからです。
我々にとっては、日露間で領土問題を棚上げしつつ資源問題だけを進めることが、どれだけ日本の国益になるかを冷徹に判断しなければなりません。したがって、政情の不安定なロシアの資源をわが国が安定的に手に入れるということを軽々しく考えるべきではないと思います。あまり渇望するとロシアに意図を見破られ、日本は利用されるだけかもしれません。 |