エネルギー講演会
「国際情勢を踏まえた日本のエネルギー安全保障政策」
(4-2)
●原子力を利用する国はどんな国?
私は大学で講義を担当していますが、「世界で原子力を利用しているのは何カ国ぐらいでしょう?」という質問を大学生にすると、「10カ国もない」と思う人が多くて驚きました。正解は33カ国です。
世界には194カ国ぐらいあるので、33カ国というと全世界の約6分の1です。石油、石炭、ガスが多くの国で使われていることを考えると、原子力を使う国は限られていることがわかります。
では、どんな国が原子力を利用しているかについてデータを紹介します。原子力を利用する国の多くは、人口が多く、経済規模が大きく、それを支えるためのエネルギーをたくさん使っている国です。日本も同じで、原子力を使う必然性はあると思います。
●日本のエネルギー政策の原則「S+3E」
日本のエネルギー政策において重視されている「S+3E」という原則があります。
Sは「安全性」、その上で、エネルギーの「安定供給」「経済効率性」「環境適合性」の3つを指します。英語の頭文字が全部Eなので、この3つを原則としてエネルギー政策を進めなければならないということが「エネルギー基本計画」に示されています。
具体的には、2030年における目標として、CO2削減量をエネルギー自給率の30%程度とする。電力コストはいまよりは高くなるかもしれないけれども、できるだけ低く抑えましょうということで、エネルギー起源のCO2排出量を2013年度比で45%程度削減しましょうという目標が出されています。
●わが国のエネルギー安全保障の実態
わが国のエネルギー安全保障について、現在の第6次エネルギー基本計画には、「わが国は四方を海に囲まれ、国際連系線がなく、化石資源に恵まれず…(中略)供給不安に直面するリスクを常に抱えており、エネルギー安全保障の確保はわが国の大きな課題であり続けている」と書かれています。
エネルギー基本計画が出たのは2021年10月ですから、まだロシアがウクライナの侵攻をするとは誰も思っていなかった頃です。
この頃に「エネルギー供給不安に直面するリスク」として何が想定されていたか。昔からよく言われるリスクとしては、中東で紛争が起きたらホルムズ海峡が閉鎖されてカタールなどのガスが日本に入ってこなくなるリスクがあります。ホルムズ海峡が閉鎖されなくても、周辺で紛争が起きているので、油田やガス田が破壊されるとか、石油精製基地などが攻撃を受けるということも想定されていました。
また、エネルギー基本計画には明確に書いていませんが、例えばシーレーンの防衛性として、中国や台湾などの情勢が不安定になることが想定されていました。あるいは、自然現象や火山噴火によるエネルギー施設の閉鎖も起こり得ます。
そのように、長期的な政策を考える上では、これらリスクは常に起こるものとして考えなければなりません。エネルギー安全保障は一日にして成らずということが言えます。