北海道エナジートーク21 講演録

エネルギー講演会「脱炭素化に向けた日本の針路」
【第二部】トークセッション
     脱炭素化未来を描くビジネスのヒント

(5-3)

●コスト抑制と脱炭素化を両立させるには

松本 産業にとって電気料金は大切な要素ですが、今後、電気料金は上がっていくとお考えですか。

山本 再生可能エネルギーの主力電源化を進めていったら、コストが上がることは避けられないと思います。先ほどお話ししたように、洋上風力の買取価格は着床式32円、浮体式36円。既存の原子力、北海道で泊原子力発電所を再稼働したら、発電コストは1ケタですね。苫東厚真石炭火力も1ケタで5〜6円ぐらいだと思います。それに比べ、洋上風力で32円や36円を消費者が負担しなければいけないわけですから、電気料金は上がっていきます。ですから、われわれが考えなければいけないのは、いかに電気料金を抑制しながら脱炭素を行うかということです。
 そういう意味では、再生可能エネルギーの主力電源化は、本当はまずいのではないだろうかと思います。脱炭素の選択肢をたくさん揃えなければいけない。洋上風力だけでなく、バイオマスも原子力もあるでしょうし、そうした多くの選択肢を組み合わせてコストや電気料金を抑制できるかを考えなければ、日本経済はますますひどいことになっていくんじゃないかと心配しています。

松本 真由美 氏松本 いまの再生可能エネルギーの電源割合は、水力を含めて18%程度ですが、次期の「第6次エネルギー基本計画」の案では、再生可能エネルギーの電源割合について「2030年には36〜38%を目指す」としています。
 また、先生がおっしゃったように、太陽光発電の導入が急増したことにより、再生可能エネルギーの賦課金が増加している状況ですので、一定規模以上の太陽光発電は固定価格買取(FIT)制度を卒業して、電気卸取引市場でのフィード・イン・プレミアム(FIP)制度での取引を始めるという方向になっています。
 また、政府はFITに頼らない企業や自治体に対する自家消費型の太陽光発電を進めていく政策を打ち出しています。
 こうした中、先生はさまざまな種類の電源をたくさん揃えておくべきだとおっしゃいましたが、産業への影響を考慮すると、日本の電源構成のあるべき方向性についてはどうお考えでしょうか。

山本 まず、再生可能エネルギー約18%が2030年に36〜38%になるという目標ですが、おっしゃる通り、これには水力が入っています。水力は約8%で、この数字は変わりません。日本はもう水力発電を開発する余地がないからです。ということは、2030年以降も水力が8%入っているということは、風力と太陽光を合わせて現在約10%のものが、2030年には約30%、つまり現在の3倍にならなければいけないということです。水力はコストが安いですが、風力と太陽光はコストが高いですね。
 松本先生がおっしゃるように、フィード・イン・プレミアム制度あるいは自家消費を進めるということですが、ヨーロッパでも同じ問題が起こっています。これを進めたとしても、太陽光発電はいつも発電しているわけではなく、台風が来たら発電できない。そのときに誰かが電気をつくらないと、工場が操業できないとか、事務所が停電するということが起きます。常にバックアップ設備を誰かが用意していなければいけない。そのお金は、われわれが払うしかないんです。そうしないと停電します。
 2020年8月、カリフォルニア州で停電がありました。なぜ停電したかというと、日没とともに太陽光発電の電気がなくなったからです。夕方にはみんなエアコンを消すはずだったのに、あまりの熱波でエアコンを消さなかった。それが原因で停電しました。
 いずれにしても、太陽光を入れるとなると、バックアップ電源を用意しなければいけない。そのお金をわれわれが払うしかないんです。電気料金は上がるばかりで、いろいろな側面を考えても下がる余地がありません。
 再生可能エネルギーは主力電源にはなりませんが、選択肢の一つであるのは間違いないです。コストを抑制しながら、数ある電源を確保して、その中で選んでいく形にしないと、われわれの生活はますます苦しくなるのではないかと思います。

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