北海道エナジートーク21 講演録

エネルギー講演会「脱炭素化に向けた日本の針路」
【第二部】トークセッション
     脱炭素化未来を描くビジネスのヒント

(5-2)

●再エネで地域は豊かになるか

松本 では、ここから山本先生にお話をうかがってまいります。山本先生、先ほど再生可能エネルギーについて厳しいコメントがありましたが、再生可能エネルギーで地域は豊かになれるでしょうか。

山本 隆三 氏山本 再生可能エネルギーで豊かになれるのは、投資する人たちです。再生可能エネルギーは、固定価格買取制度によって、つくった電気を決まった金額で買ってくれます。例えば、洋上風力の場合、今年の買取価格は着床式32円、浮体式36円。これだと、投資家は確実に儲かります。投資する立場の人は設備を安くしたいので、たぶん日本製の高い設備は使わない。これは太陽光パネルで実証されました。日本製もありましたが、みんな中国製を買うので日本のメーカーはどんどん止めていきました。そういうことが再度起こって、日本で風力設備の製造は行わないと思います。
 それから、雇用も期待できません。太陽光や風力の場合は建設雇用です。パネルを取り付けるだけの難しい工事ではないので、建設労働者の中でも賃金の安い仕事になりがちで、建設が終われば仕事は終わりです。また、洋上風力の浮体式だと工事が難しいので、地元の方は下請けの下請けくらいでしか入れず、建設雇用も東京の大手に行ってしまう可能性が高いのではないかという気がします。
 再エネを過去10年間やってきて豊かになった地域はないんですね。豊かになったのは再エネ投資をした人、事業者とそれを斡旋した人たちですね。その利益を生み出す元は、私たちが払っている電気料金だということをよく考えなければいけないと思います。

松本 厳しい現実をご指摘いただきました。例えば、洋上風力発電の導入量が世界一のイギリスでは、海外からタービンメーカーが入ってくる場合、部品の6割を内製化するなどの条件を付けて入札制度を行っています。日本の風力発電産業も、日本で内製化することを条件に海外のメーカーに入ってもらうようなルールをつくってはどうかという話もあります。この点、先生はいかがですか。

山本 洋上風力は、部品数が多いのがネックだと思います。例えば、自動車の部品数は3〜4万個あります。そうすると、1次下請け、2次下請け…最後は5次下請けと、ピラミッド型に下請けが組まれているんです。そこに割り込むことができるかどうか。部品をつくっている会社が2次下請けに突然入れるかどうかというと、入れません。そこが3次下請け、4次下請け、5次下請けを持っていないからです。というわけで、部品数の多い産業は既にピラミッドがつくられているのではないかと思います。
 さらに、部品の6割を日本でつくりたいといっても、一体どこをつくるか。仮にそれができたとしても値段が非常に高くなってしまい、部品を買ってくれるのだろうか。6割の条件に合意したのに買わないなど、いろいろな問題が出てくると思います。
 ですから、アメリカのように「中国製の太陽光パネルに課税します」と堂々と宣言し、参入させない。中国製の風力発電設備に2割課税するということをアメリカのようにやることができれば、ひょっとしたら日本でつくる人が出てくるかもしれません。でもなかなか難しいんじゃないかと思いますね。

松本 もう1点、洋上風力について質問していいでしょうか。政府は、脱炭素化のカギとして「再生可能エネルギーの主力電源化」を目指しています。北海道は非常に資源が豊かですので、先々、洋上風力発電の導入がされるでしょう。構想段階ですが、北海道から首都圏に対して直流送電を設置するという計画も委員会の中では挙がっています。これについてはいかがでしょうか。

山本 費用対効果の問題だと思います。要はそれだけの費用をかける価値があるかどうか。そこに費用をかけるのであれば、他に使ったほうがいいのではないかということも考えなければいけないと思います。アメリカやヨーロッパでは、確かに再生可能エネルギーの導入については送電網の問題が出ます。それは日本と送電網の形が大きく異なっているからです。
 簡単にいえば、アメリカやヨーロッパは円形の送電網です。日本は違って、北海道から九州まで縦に送電線が延びています。従って地形上、アメリカやヨーロッパのように円形にはできないので、余分なお金がかかってしまう可能性が高いです。あえて高い金を使う価値があるのかを考えなければならない。洋上風力を北海道ではなく本州で組むと、確かに発電コストは高いかもしれませんが、送電コストを考えたら本州のほうが安くなるということもある。そういう意味で、費用対効果を考えなければならないと思います。
 日本政府にはお金はありません。国民もお金がありません。貴重な資金をどこに使うかをよく考えなければいけないと思います。

トークセッションの様子

≪トークセッションの様子≫

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