北海道エナジートーク21 講演録

エネルギー講演会
コロナショックからエネルギーを考える
〜歴史から学ぶ危機脱出のヒント〜

(4-4)

第3話 いまを見る、これからを考える

●日本の特殊性を前提に考える

金田 武司 氏 さて、これからについて考えてみたいと思います。講演のたびにお伝えしていることですが、日本がいかに特殊な国かということから話を始めなければ、惨禍は繰り返されます。

 日本の特殊性としてまずいえることは、他の国と電線がつながっていないことです。隣の国と電線がつながっていない先進国ってありますか。イギリスだって大陸とは電線でつながっています。日本だけです。しかも、石油パイプラインもガスパイプラインも、他の国とまったくつながっていない。こういう国は自分の国だけでやっていくしかないわけです。他の国は決して助けてくれない。現実的に無理です。

 そういう国であることを前提とした対策が絶対必要だと思いますが、エネルギー、CO2問題において日本の取組みは他国とほぼ同じような状況です。まず、日本の特殊性を理解することから始めなければならないと思います。

 そこで、自給について考えてみます。日本はオイルショックの後、世界に先駆けて自給のために新エネに取り組んだ先進国なんだ、と先ほどお話ししました。

 では、新エネルギーは自給でしょうか。ウナギは自給にカウントできない、外国の飼料を食べて育った牛は自給にカウントできないということがわかりましたが、新エネルギーは自給でしょうか。私は自給ではないと思います。

 なぜならば、その部材を外国から輸入しているからです。日本製の風力発電機は残念ながらありません。1社も風力発電のメーカーがなく、太陽光発電モジュールも日本で作っているところはほとんどありません。嘘だという人もいますが、それは、最後にシールを貼っているだけです。最後に組み立てているのが日本であれば国産シールを貼ることができる。それが日本の工業製品です。マスクと同じです。太陽光パネルは、主要部品の約80%が中国製です。ですから、われわれが新エネのために使っているお金は、海外へ行っているということです。

 よそから買ってきて自給というのは何だかよくわかりませんが、日本ではつくられていません。それを負担しているのは国民です。新エネ政策は一生懸命ですが、国内メーカーが新エネルギーで儲かってしょうがないという話を、私は聞いたことがありません。

 巨額のお金を使って新エネルギー産業を発展させたいという思いがありながら、新エネルギー産業はなぜこんなにピンチなんでしょうか。不思議に思いませんか。全部外国から買ってきているからです。集めたお金でしていることといえば、「購入」です。いいか悪いかは別です。「新エネルギーをとにかく普及させる。CO2をできる限り削減するんだ」という意味ではその通りですが、自給にはなっていません。

 できる限りと申し上げたのは、新エネルギーでCO2がどの程度削減できるかも重要です。例えば、天然ガスと太陽光発電だと、どちらがCO2を削減すると思いますか。簡単に計算すると、天然ガスのほうがCO2を削減できます。例えば1兆円を投入して、どちらがCO2を削減するかといえば天然ガスです。北海道にあるような最新鋭の天然ガス火力発電所が最も多く削減すると思います。

 だからといって新エネルギーを批判するつもりはありません。唯一、日本で自給できる可能性のある資源ですから進めるべきだとは思いますが、初心は何だったかを思い出していただきたい。日本の産業やメーカーはそれで潤っているのか、日本独自でそれがつくれるのかという観点から、もう一度議論する必要があるだろうと思います。

講演会の様子

≪講演会の様子≫

●自給・自立の重要性

 2020年4月、コロナ禍で原油価格がマイナスになったというニュースを覚えていらっしゃいますか。普通はお金を払って石油を買ってきますが、マイナスということは、お金もいただけるし、石油もいただけるという事です。

 エネルギー業界は特殊です。例えばLNGはつくり始めたらずっとつくり続けなければなりません。買ってくれる人がいようがいまいが、つくり続ける。巨大な液化装置にものすごくコストがかかるので、途中で止めるわけにはいかないからです。そのため、需要が減ったときに「いりません」と言うことはできないんです。「テイク・オア・ペイ契約」といって、引き取らなくても金を払わなければならないという契約です。つまり、売り手市場です。

 例えば私が契約していて、「うちのタンクはもう満杯です」と言い、周りを見て「誰か買う人はいませんか」と探して誰もいなかったらどうしますか。捨てるわけにもいきませんね。

 ですから、エネルギータンカーが総動員しているこの写真は、「頼むから誰か引き取ってくれ」という痛切な光景なのです。買った石油やLNGがコロナ禍で余ってしようがないので、陸上に置くところがない。使うこともできず、エネルギーを積んだタンカーが荷下ろしできないまま海上で立ち往生している。そういう写真です。

 また、現在は石炭が逆風です。原子力発電所も停止しています。そして日本の新エネルギーも初心を忘れてしまったように見えます。では、LNG一本でいくのかといえば、そういうわけにもいきません。

 これが今日のまとめです。コロナ禍でいろいろなことが見えてきたように、日本の歴史が教えてくれたことをもう一度、考えてみたいと思います。われわれが第2次世界大戦やオイルショック後の復興にあたって、他人に頼ったでしょうか。危機だと思ったら原点に戻るしかない。海外依存からは新しい技術や産業競争力は生まれません。また、医療や食料、エネルギーも、コロナ禍で見えてきたのは、自給・自立の重要性です。これこそがいま、われわれが気がつかなければいけない重要なポイントです。以上で私の話を終わらせていただきます。

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