北海道エナジートーク21 講演録

エネルギー講演会
「激動の国際エネルギー情勢と日本の課題」

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エネルギー講演会「激動の国際エネルギー情勢と日本の課題」

講師 小山 堅 氏

(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 専務理事・首席研究員)

小山 堅 氏

1986年早稲田大学大学院経済学修士修了後、同年(財)日本エネルギー経済研究所入所。1995年から2年間の英国ダンディ大学留学を経て、2020年6月より現職。この間、東京大学公共政策大学院客員教授、東京工業大学特任教授のほか、経済産業省総合資源エネルギー調査会基本政策分科会長期エネルギー需給見通し小委員会委員や同省電力・ガス取引監視等委員会専門委員等を歴任。「エネルギーの地政学(朝日新書 2022年8月)」ほか著書、論文多数あり、最新刊は「地政学から読み解く!戦略物資の未来地図(あさ出版 2023年6月)」。

●エネルギーに重要な「3つのE」

 エネルギーは、私たちの暮らしに身近で必要不可欠なものです。例えば電気は、天然ガスや石炭などのさまざまな燃料を海外で開発して、運んできて、日本の発電所で発電します。つまり、身近であると同時に国際的なインフラ・供給チェーンとして考える必要があります。

 エネルギー供給を考えるにあたって、3つの重要なポイントがあります。1つは、安定的に手に入れられること。2つめは、手頃な値段であること。3つめに、環境にやさしい形で使い、提供しなくてはいけません。

 日本では「3つのE」という言葉で表します。まず「安全性」を大前提として、英語の頭文字がEで始まる「安定供給(Energy Security)」「経済効率性(Economic Efficiency)」「環境適合(Environment)」の3つを同時に進めていくというのが日本のエネルギーの考え方です。しかし、この3つを同時に守るのはなかなか難しいというのが問題です。

●2022年は歴史的な転換の年

小山堅氏

 私はエネルギーの研究に40年ほど携わっていますが、2022年は歴史に残る大きな転換の年でした。

 2022年の原油の平均価格は9年ぶりに100ドルを超え、2008年のリーマンショック以来の史上最高値を記録しました。新聞やテレビでも「原油が高い」「ガソリンが高い」「補助金だ」と大きな騒ぎになりました。さらに超高価格がついたのがガスと石炭です。特にヨーロッパのガスの価格は、原油換算で600ドル、石炭も1トンあたり300ドルの史上最高値でした。極端な価格高騰が暮らしを直撃し、私たちのエネルギーに対する考え方を大きく揺り動かしたというのが、2022年の重要なポイントです。

 エネルギー価格がものすごく上がった中で、世界的に何が起きたかというと、特定の供給国や供給地域が一気に重要性を増しました。2022年以降、いまも戦争が続いていますが、ロシアがウクライナに攻め込んで、日本を含めた西側諸国は「ロシアのエネルギーを使うことはやめましょう」という姿勢を取っています。

 ではどこに頼るかというと、石油ではサウジアラビアなどの中東の国々、ガスではアメリカに頼るようになりました。そして、2023年10月から、中東でまた大動乱が起きています。これからどうなるのか、先がまったく読めません。

●エネルギー問題を巡る新たな内外情勢

 そこで、将来を見るうえで重要な点をお話ししたいと思います。

 まず、今後もエネルギーの市場は不安定な状況が続くだろうと思います。そうした中でエネルギーの安定供給を確保すること、エネルギーの安全保障を守ることが一気に重要になりました。

 ウクライナで戦争が起こる前までは、「エネルギー問題=脱炭素化」という状況が2021年くらいまで続いていました。ところが、価格高騰とウクライナの問題で「エネルギー安全保障が大事だ」と改めて思いを至らせることになりました。その上で、気候変動の防止とどう両立させていけばいいのかが、いまの重要な課題といえます。

 そして、重要なポイントが「世界の分断」で、アメリカと中国の対立が激化していきます。ウクライナ戦争の後は、西側諸国と中国・ロシアが対決していくようになります。