北海道エナジートーク21 講演録
 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会
 '09新春エネルギー講演会 
(2-2)
    【第一部】 「私の取材手帳から」
〜環境の世紀のライフスタイルを考える〜

自然体験を通じて子どもたちに学びの場を

 

「私の取材手帳から」〜環境の世紀のライフスタイルを考える〜 子どもたちに関して、私には大変貴重な取材体験があります。宮城県の気仙沼市は、水揚げ日本一のサンマをはじめとして漁業が盛んな地域です。そこの漁師さんたちが中心的な役割を担って取り組んでいる「森は海の恋人運動」について取材させていただく機会がありました。

 気仙沼では昭和40年代くらいから海がどんどん汚れてきて、養殖したカキの貝を開けると、血がにじんだように真っ赤なカキが獲れるという危機的な状況があったそうです。漁師さんたちには死活問題ですから、原因を突き止めたいと調査を始めました。その結果、海そのものに問題があるのではないとわかったそうです。気仙沼湾には大川が注ぎ込んでいますが、大川の上流にある山の状況が、時代とともに大きく変わったことが海の汚染につながっていることを突き止めました。

 おそらくこの時代は全国で似たような状況があったと思いますが、山の落葉樹がどんどん伐採されたことが原因のようです。落葉樹は、季節が来ると葉っぱが落ち、下の土と混ざって腐葉土になります。雨が降ると腐葉土が川に流れ込み、川を通って気仙沼の海に注ぎ込まれます。腐葉土には鉄分を運ぶ役割があるのだそうです。カキなどのえさは海中の植物プランクトンで、その植物プランクトンは鉄分がないと生きられないのだそうです。そのようにして魚介類にも大きな打撃が起こっていたということを、漁師さんたちは自ら調べて原因をつかんだそうです。山も川も海もばらばらではなく、一つのサイクルによってこのすばらしい生態系が作られているわけですね。

「私の取材手帳から」〜環境の世紀のライフスタイルを考える〜  大川には、腐葉土だけでなく、川の流域で暮らす人たちの生活用水や工場の排水なども流れていきますから、大川のありようは流域に暮らす人たちの姿を表す鏡でもあります。そのようにいろいろな原因で海が汚れていきましたが、漁師さんたちも「このままではいけない。何かしなければ」ということで始まったのが、「森は海の恋人運動」です。

 この運動は現在も行われており、毎年6月になると、漁師さんたちがシンボルの大漁旗を持って山に登り、そこで落葉樹の植樹をします。「森は海の恋人運動」というネーミングがすばらしいと思います。海が豊かであるためには森の存在が大事で、森は恋人なんだという思いが込められています。この運動は約20年間続けられていて、「人間がしっかりと向き合って接すれば、自然は応えてくれる。気仙沼の海も少しずつ美しさを取り戻してきている」と漁師さんたちもおっしゃっていました。

 また、この運動からは思わぬ副産物も生まれました。海に住む人と山に住む人はそれまで目立った交流がなかったそうですが、毎年漁師さんが山に上がっていくと、山に住んでいる人たちがおもてなしをしてくれたり、運動に加わってくれるようになったりと交流が生まれていきました。あるとき漁師さんたちが、いつもの歓迎のお礼として、山の子どもたちを海に招待したそうです。生まれて初めて海を見た子もいて、カキの養殖風景を見学するなど楽しい一日を過ごして山に帰ったそうです。

 その子どもたちから、すぐにお礼の手紙が届きました。小学3年生の男の子の手紙には、こんなことが書いてあったそうです。「僕はあの日、初めて海のすばらしさを体験してとても感動しました。僕の家は、お父さんが農業をやっています。その夜の夕食のときに、お父さんにお願いしました。海は本当にすばらしかった。これからお米を作るときに農薬を少しでも減らしてほしいと、お父さんに頼みました」。また、小学6年生の女の子からは、「海のすばらしさに感動して、その日から私は、自分に何ができるかを考えました。私がまずやったことは、その日の夜から、シャンプーの量をできるだけ減らして、汚い水を川に流さないように心がけるようにしました」という手紙が届いたそうです。

「私の取材手帳から」〜環境の世紀のライフスタイルを考える〜  漁師さんたちも言っていましたが、子どもたちは本当に感性が柔らかいですね。実際に体験して感動すると、すぐに行動に移すんです。海のすばらしさを実感したら、その美しさを守るために自分にできることをすぐに考え、その日のうちから実行するわけです。子どもたちの感性や行動力は本当にすごいと思います。そういう子どもたちに私たち大人も動かされて、意識や行動を変えていけることはたくさんあると思います。私たち大人は日々忙しさに追われ、長年の生活習慣が染みついているせいか、環境が大事だとわかっていても、生活や意識をなかなか変えにくい面もあります。

 だからこそ、皆さんにぜひお願いしたいことがあります。これからの時代を担う子どもたちに、自然のすばらしさを四季折々に体感させられるような場を提供することが、私たち大人の義務でもあると思います。学校で子どもたちに「環境が大事だ」といくら言葉で伝えても、自然のすばらしさを一度も体感したことがなければ、環境問題に取り組む力にはなかなかつながらないわけです。やはり五感で体験する、感性で自然のすばらしさを体感するからこそ、行動に移せるのだと思います。

 そういう点で、北海道は自然に恵まれたすばらしい地域です。昨日の日経新聞に出ていましたが、「全国でいちばん住んでみたい地域はどこですか」というアンケート調査によると、1位は北海道でした。 その理由としていちばん多かったのは「美しく豊かな自然環境がある」、2番目に「すばらしい食材に恵まれている」が挙げられていました。私たちは足元の宝物に気づきにくいですが、北海道は本当にすばらしい宝物がたくさんある地域だと思います。そしてこれからの時代、地球環境と私たちの暮らしをどう両立させていくかを考えるときに、今日お話しした食生活やまちづくり、子どもたちに自然のすばらしさを体感させてあげる場の提供など、そうしたことを実践できる土壌が北海道にはあると思います。

 これからの時代、環境と共生できる、豊かで幸福な新しいライフスタイルを、ぜひ全国に先駆けて北海道からどんどん提案し、実践していただきたいと思います。ご清聴をありがとうございました。

「私の取材手帳から」〜環境の世紀のライフスタイルを考える〜
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