北海道エナジートーク21 講演録
 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会
 '09新春エネルギー講演会 
(2-1)
    【第一部】 「私の取材手帳から」
〜環境の世紀のライフスタイルを考える〜

「私の取材手帳から」〜環境の世紀のライフスタイルを考える〜
 

講師   福島敦子氏
  キャスター・エッセイスト  
  福島 敦子 (ふくしま あつこ) 氏  
略歴  
  津田塾大学学芸学部卒業。中部日本放送を経て、1988年独立。NHK、TBSなどで報道番組を担当。近年はテレビ東京での経済番組「ビジネス維新」のキャスターや、週刊誌「サンデー毎日」における250人におよぶ企業トップとの対談など、数多くの企業、経営者への取材を精力的に行っている。経済の他、コミュニケーション、環境、地域再生、農業など現代社会の問題をテーマにした講演やフォーラムでも活躍。著書には「愛が企業を繁栄させる」(最新刊)などがある。  


情報化時代にこそ感性が求められる

 

 皆さん、こんにちは。札幌、北海道は大好きな土地で、これまでに何度もうかがっています。この講演では、さまざまな取材体験の中から、これから私たちにとってどんなことが大切なのかについて、身近な視点でお話をさせていただきます。


日々の食生活を見直す

 

「私の取材手帳から」〜環境の世紀のライフスタイルを考える〜 皆さんも、電気をこまめに消したり、買い物にマイバッグを持参したり、省エネ性能に優れた家電製品を選んだりするなど、いろいろなことを心がけていると思いますが、今日は少し広い見方でお話をさせていただきます。

 一つは、私たちの食生活を見つめ直してみることについてです。数年前、イタリア人の友人が初めて日本に遊びに来たとき、私が東京を案内すると、こんな風に驚いていました。「日本はどうしてこんなに世界中から食材を輸入しているんだ。地域においしい食材がたくさんあるのに、なぜ高いお金を払って、季節外れのものをこんなに輸入して食べているのか」。確かに日本は世界中から食料を輸入していますね。食料自給率は40%を切っている状況です。

 最近は「フードマイレージ」という言葉が使われるようになりました。フードマイレージとは、食材を生産地から消費地まで運ぶために必要な「距離」に、輸入した食材の「量」をかけて弾き出される数値のことです。つまり、遠いところからより多くの食料を輸入するほど、フードマイレージの値は大きくなります。しかも、その値が世界でいちばん大きいのが日本です。

 しかし一方で、私たちは毎日たくさんの食べものをムダに捨てています。日本における年間の食料廃棄物の量は500〜900万トン。この数値は、世界における年間の食料援助の量の1.5倍に当たるそうです。まずは私たちの食生活を見つめ直すことも、環境問題を考えるうえで重要なのではないでしょうか。本質的に、豊かな食生活とは何かを考えてみる必要があります。

 私たちは食事をするときに、手を合わせて「いただきます」と言いますが、この言葉の前には「お命」が省略されていると仏教の専門家から教えていただきました。正確な表現は「お命いただきます」だそうです。食べものは工業製品とは違い、食材の命をいただいているわけです。その重みを感じることが大切だと思います。

 最近、スローフード運動が世界的に広がってきました。スローフードは「ファストフード」と対極にある言葉で、この運動には様々な理念があります。小規模でも地域で一所懸命にいい食材を作っている人を消費者として応援しようという理念。また、郷土料理や食文化を大切にして次世代に引き継いでいこうという理念。子どもたちに食の大切さを伝えていく「食育」。そして「地産地消」という理念がスローフード運動に含まれています。その土地でとれた新鮮な食材を旬の時期にいただくということです。そうした食の本質をもう一度取り戻そうというのがスローフード運動です。中でも「地産地消」は、まさに環境問題ともリンクします。季節のおいしいものや新鮮なものをいただくことは、食生活が豊かになり、環境に優しいことでもあります。本来の豊かな食を取り戻すことと、環境に配慮した食生活をすることは同じベクトルを向いていると思います。


広島市に学ぶ長期的視点でのまちづくり

 

「私の取材手帳から」〜環境の世紀のライフスタイルを考える〜 食生活のほかに、身近なところで考えていきたいのがまちづくりです。社会資本整備のあり方という点でも、考えるべきことがあるのではないかと思います。これまで日本では"新しいこと"に価値が置かれてきました。例えばマンションなども、新しいものほど価格が高く設定され、スクラップ&ビルドを繰り返してきました。しかし、それも大変な資源をムダにしているわけです。ヨーロッパには、古い家に手を加えながら大事に使っていく文化があります。やはり日本でも、一つの住空間を大事に長く使っていくことが、環境問題に直結することだと思います。

 以前、広島市のまちづくりについて取材したときに大変印象に残ったことがあります。広島市は、原爆投下から100周年にあたる2045年に向け、世界の人々の希望の都市となること、また、優れたデザインの社会資本整備や個性的で魅力ある都市空間の創造を目指して「ひろしま2045:平和と創造のまち」という事業を行い、まちづくりに非常に力を入れています。

 その事業の一つとして作られたごみ焼却施設が「広島市中工場」です。平成16年にできてすぐに取材に行きましたが、大変斬新な施設でした。多くの場合、ごみ焼却施設は街の中心部から離れた場所に作られますが、広島市中工場は中心部から比較的近いところにあります。平和記念公園を南に進んだ瀬戸内海の埋立地の一角に作られた施設です。

 とても驚きましたが、ごみ焼却施設と聞いていなければ、まったくそうとは思わない建物でした。非常にモダンな、コンクリートの打ちっぱなしのようなデザインで、美術館や博物館とも思える外観です。建物の中は両側が全面ガラス張りで、中央に通路があり、プラントでごみが焼却処理されていくプロセスがガラス越しに見学できます。また、ところどころに情報が提供されていて、「広島市で一日に出るごみの量はどれくらいか」などのボタンを押すと、いろいろな情報が入手できます。見学しながら通路を突き抜けると、穏やかで美しい島々が浮かぶ瀬戸内海が見えます。そこに椅子とテーブル、自動販売機があり、お茶を飲みながら一息つくこともできます。

 この施設は、プラントメーカーと、美術館や博物館を専門に扱う設計事務所とのジョイントによって作られた、新しい形のごみ焼却施設です。それだけこだわった施設ですから、通常よりも建設費は多くかかったようですが、365日ずっと市民に開放され、いつでも見学ができ、小・中学校の課外授業の場としても活躍しています。つまり、この施設はごみを焼却するだけではありません。そこに付加価値をつけ、市民がいつでも足を運べるようにして、ごみがどのように処理されているのかを知ってもらいたい、環境問題への意識を高めてもらいたいという考えがあったそうです。地方財政の厳しい時代ではありますが、こうしたことも、これからのまちづくりを考えるうえで大事だと思います。安く早くできて丈夫なだけでなく、長くその地域の人たちに愛され、付加価値を持つものを作ることも、資源を大事にしていくために重要な視点なのではないかと思います。

 私たちの身近な生活を見つめ直すことは、いろいろな面で環境問題とつながっています。それは、いまの豊かな暮らしを我慢することではありません。むしろ「本当の豊かさとは何か」という原点を見つめることが環境問題にもつながると思います。

「私の取材手帳から」〜環境の世紀のライフスタイルを考える〜
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