食生活のほかに、身近なところで考えていきたいのがまちづくりです。社会資本整備のあり方という点でも、考えるべきことがあるのではないかと思います。これまで日本では"新しいこと"に価値が置かれてきました。例えばマンションなども、新しいものほど価格が高く設定され、スクラップ&ビルドを繰り返してきました。しかし、それも大変な資源をムダにしているわけです。ヨーロッパには、古い家に手を加えながら大事に使っていく文化があります。やはり日本でも、一つの住空間を大事に長く使っていくことが、環境問題に直結することだと思います。
以前、広島市のまちづくりについて取材したときに大変印象に残ったことがあります。広島市は、原爆投下から100周年にあたる2045年に向け、世界の人々の希望の都市となること、また、優れたデザインの社会資本整備や個性的で魅力ある都市空間の創造を目指して「ひろしま2045:平和と創造のまち」という事業を行い、まちづくりに非常に力を入れています。
その事業の一つとして作られたごみ焼却施設が「広島市中工場」です。平成16年にできてすぐに取材に行きましたが、大変斬新な施設でした。多くの場合、ごみ焼却施設は街の中心部から離れた場所に作られますが、広島市中工場は中心部から比較的近いところにあります。平和記念公園を南に進んだ瀬戸内海の埋立地の一角に作られた施設です。
とても驚きましたが、ごみ焼却施設と聞いていなければ、まったくそうとは思わない建物でした。非常にモダンな、コンクリートの打ちっぱなしのようなデザインで、美術館や博物館とも思える外観です。建物の中は両側が全面ガラス張りで、中央に通路があり、プラントでごみが焼却処理されていくプロセスがガラス越しに見学できます。また、ところどころに情報が提供されていて、「広島市で一日に出るごみの量はどれくらいか」などのボタンを押すと、いろいろな情報が入手できます。見学しながら通路を突き抜けると、穏やかで美しい島々が浮かぶ瀬戸内海が見えます。そこに椅子とテーブル、自動販売機があり、お茶を飲みながら一息つくこともできます。
この施設は、プラントメーカーと、美術館や博物館を専門に扱う設計事務所とのジョイントによって作られた、新しい形のごみ焼却施設です。それだけこだわった施設ですから、通常よりも建設費は多くかかったようですが、365日ずっと市民に開放され、いつでも見学ができ、小・中学校の課外授業の場としても活躍しています。つまり、この施設はごみを焼却するだけではありません。そこに付加価値をつけ、市民がいつでも足を運べるようにして、ごみがどのように処理されているのかを知ってもらいたい、環境問題への意識を高めてもらいたいという考えがあったそうです。地方財政の厳しい時代ではありますが、こうしたことも、これからのまちづくりを考えるうえで大事だと思います。安く早くできて丈夫なだけでなく、長くその地域の人たちに愛され、付加価値を持つものを作ることも、資源を大事にしていくために重要な視点なのではないかと思います。
私たちの身近な生活を見つめ直すことは、いろいろな面で環境問題とつながっています。それは、いまの豊かな暮らしを我慢することではありません。むしろ「本当の豊かさとは何か」という原点を見つめることが環境問題にもつながると思います。
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