エネルギー講演会
「大きく変化する日本のエネルギー情勢を考える」
(3-3)
●わが国における原子力の位置づけ
第7次エネルギー基本計画において、第6次と比べて大きく変わったのは原子力です。
原子力は、データセンターや半導体工場への電力供給に大きく役立ちます。特に、日本のエネルギー政策の基本方針である「S+3E」の「安定供給」の面で、原子力は非常に優れています。太陽光や風力などは不安定ですが、原子力は一度スイッチを押したら13カ月間100%で運転し続けることができます。スイッチを切れば2カ月間の定期検査に入り、またスイッチを入れたら13カ月間運転し続けます。これほど安定した電源は他にありません。
原子力の特徴と強みは、「安定」「大規模」「他電源と遜色ないコスト水準」「炭素無排出」「準国産エネルギー」「高い技術自給率」「エネルギーの有効活用」などが挙げられます。特に技術自給率の点では、西側諸国で原子力発電所を1から100まで自分の国だけで作れるのは日本だけです。

また、原子力の使用済燃料の95〜97%は再利用することができます。これを「核燃料サイクル」といいます。再利用ができない5〜3%の高レベル放射性廃棄物は非常に少ない量ですが、天然ウラン鉱石と同等レベルにまで放射能が減衰するには、最も長いもので10万年かかります。ただし、核燃料サイクルを上手に回していくことにより、放射能の減衰期間を300年に短縮することができます。この技術はかなり進展していますが、まだ全部はできていないのが現在の状況です。
もう一つ、日本の原子力発電所の運転期間の上限は、原則40年、延長20年の計60年とされてきましたが、政府が目指す脱炭素社会の実現などに向け、60年を超える期間も運転を可能にする法案がGX脱炭素電源法として成立し、2025年6月に施行されました。
これにより、原子力規制委員会の審査などで停止していた期間は運転期間に含まれないため、実質的に60年を超える運転が可能になりました。
●原子力の活用に向けた課題
原子力の課題の一つは、放射性廃棄物の最終処分が決まっていないことだと言いました。もう一つの課題は、ひとたび事故が起きると、影響が非常に大きいということです。14年前に福島第一原子力発電所事故が発生し、いまだに帰還困難区域が設定されているなど、事故が起きると半径数十kmにまで影響を及ぼしてしまいます。
この二つの課題をクリアすることが、原子力の真の意味での活用のために重要だと思います。まずは安全最優先に、国民の皆さまからのご理解、立地地域との信頼関係の構築をしっかりと進めていくことが大事だと思います。
●原子力人材の確保と育成
原子力分野の人材育成は重要ですが、福島第一原子力発電所事故を契機に原子力開発が停滞していたため、人材は減っています。若い人たちには原子力を勉強してほしいですが、なかなか難しいのが現状です。
日本原子力文化財団が2006年から毎年、原子力に関する世論調査を行っており、「原子力に対するイメージを選んでください」というアンケートをまとめたものがあります。

これを見ると、原子力は「危険」「不安」「複雑」などの否定的なイメージが大きいことがわかります。肯定的なイメージでは「必要」「役に立つ」がありますが、マイナスイメージがそれらを上回っています。「明るい」「かっこいい」などはほとんどなく、「信頼できない」というのが極めつけだと思います。
私を含め、原子力業界にいる人間は、まずこの状況をきちんと理解して、何をしたらいいかを考えなくてはならないと思います。
原子力に関する若い人たちへの理解促進活動を考えたとき、私が提案したい案の一つが修学旅行です。
西日本の公立小学校では、修学旅行で広島に行き原爆ドームを見学するのが定番のようです。そこで戦争の悲惨さを学び、原子爆弾による悪い影響について勉強します。しかし、それだけでなく、その足で島根県松江市や福井県敦賀市などの原子力発電所にも行って、「そうは言っても原子力はこのように役立っている」という現実も併せて見てもらうことが大事だと考えています。
大人が子どもたちにできることは、偏った情報ではなく、科学的根拠に基づいた情報を両論併記で提供することだと思います。
第7次エネルギー基本計画を機に原子力を取り巻く環境が大きく変わったので、ここからが再スタートだと思います。これまで先輩方がつくってくださった原子力の地盤を、我々の世代が引き継ぎさらに発展させていかなければなりません。そのためには、原子力への信頼醸成を時間をかけて着実に進めていくしかありません。そのために大事なのは、「安全・安心・信頼」だと思います。

