エネルギー講演会
「大きく変化する日本のエネルギー情勢を考える」
(3-1)
講師 黒ア 健 氏
(京都大学 複合原子力科学研究所 所長・教授)

1973年徳島県生まれ。1995年3月大阪大学工学部原子力工学科卒業、大阪大学助手・助教・准教授を経て、2019年4月京都大学教授(複合原子力科学研究所)、2023年4月より現職。専門は、原子力工学、核燃料工学、材料科学、マテリアルズ・インフォマティクス。
現在、経済産業省・基本政策分科会委員、原子力小委員会委員長、文部科学省・原子力科学技術委員会委員、原子力規制庁・核燃料安全専門審査会審査委員、福井県・原子力安全専門委員会委員、鹿児島県・原子力安全避難計画等防災専門委員会委員などを務めている。
●第7次エネルギー基本計画の論点

2025年2月18日、第7次エネルギー基本計画が閣議決定されました。エネルギー基本計画は、国が定めるエネルギー政策の基本的な方針で、概ね3年に1度ぐらいのペースで更新されます。事務局の経済産業省に基本政策分科会という有識者会議が置かれ、私も委員の一人です。その中で集中的に議論を重ね、取りまとめられた案がパブリックコメントを経て、最終的に閣議決定されます。
そうしてできあがったのが最新版の第7次エネルギー基本計画です。その前の2021年10月にできた第6次エネルギー基本計画と対比させながら、どこが変わったのかについてお話ししていきます。
第6次から第7次までの4年間で、エネルギーを取り巻く状況は大きく変わりました。
まず、世界では、ロシアのウクライナ侵攻がありました。その影響によって化石燃料の価格が非常に不安定になっています。
また、中東情勢の緊迫化に伴い、日本は燃料を買いにくくなるだけでなく、日本に運んでくるときに安全な航行ルートを確保しにくくなりました。これはエネルギー安全保障に直結する問題といえます。
さらに、脱炭素化の流れが加速するのに伴い、世界中で原子力回帰の傾向が強まっています。イギリスは原子力発電を今の約4倍に、アメリカは約3倍に増やすとしています。
日本の場合、非常に大きな問題がエネルギー自給率です。日本には化石燃料がまったくなく、99%以上を輸入している状況にもかかわらず、一次エネルギーの約83%を化石燃料に頼っている状況です。資源価格がどんどん上がっていき、近年では年間数十兆円が外国に流れて貿易赤字が続いています。

では、こうした状況で日本は発展できるのでしょうか。議論のポイントの一つは、エネルギーだけを独立して考えるのではなく、エネルギーと産業の発展をセットで考えることです。例えばデータセンターの消費電力量の伸びは著しく、生成AIの登場が拍車をかけています。データセンターの消費電力量は2018年時点に比べ、2050年で8〜35倍に増えるだろうといわれています。
データセンターを造る計画をしてから稼働するまでに3年ぐらいかかりますが、データセンターに電気を供給する発電所を建設するには、原子力だと17年もかかります。つまり需要と供給の間にリードタイムの差があるので、それを踏まえてエネルギー計画を立てていくことが必要です。
