エネルギー講演会
「大きく変化する日本のエネルギー情勢を考える」
(3-2)
●原子力発電所の再稼働状況
原子力発電所の再稼働ですが、泊3号機は2025年7月、原子力規制委員会から正式合格が出ました。現在進めている工事を完了後、立地地域の皆さまのご理解を得て再稼働するという状況です。
日本ではもともと50基超の原子炉が動いていましたが、東日本大震災を機に一旦ゼロになり、50基超のうち20基超は廃炉となりました。残りは順に再稼働していくことになっていますが、まだ14基しか再稼働していないので、もっと早く進めていく必要があります。
これは原子力の設備容量の図です。2030年、2040年、2050年、2060年と経つにつれて、右肩下がりのがけ崩れ状態です。このままだと、日本から原子力発電所はなくなってしまいます。

原子力の課題の一つは、原子力発電所の運転によって発生する放射性廃棄物を最終的にどうするかについて、日本ではきちんと決まっていないことです。技術的には地層処分という手段が確立されていますが、社会の中でそれをどう受け入れていくかが非常に難しい課題です。
しかし、原子力は進めていく必要があり、今後を考えると次世代革新炉は大きなキーワードです。次世代革新炉には革新軽水炉、小型軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合という五つの炉型があります。これらの得意分野を生かしながら、今後の原子力の設備容量を補っていこうという方針です。
●2040年度のエネルギー需給の見通し
4年前の第6次エネルギー基本計画では、今後は電力需要が低下していくことを前提として、2030年時点で原子力は総発電量の20〜22%程度を目標に掲げていました。しかし、再稼働があまり進んでいないので、その目標の達成は既に厳しい状況にあります。
そんな状況にあるにもかかわらず、第7次エネルギー基本計画では2040年度のエネルギー需給の見通しが示されました。
ポイントは発電種別の発電コストです。従来は発電時点でのコストしか出していませんでしたが、今回新たな試みとして、「統合コスト」を考慮した発電コストの検証をしています。発電所で電気をつくったとしても、使うためには運ぶ必要があります。系統につなぎ、電気を運ぶこともすべて考慮して発電コストを検証し直したのがこの図です。

原子力の発電コストは12.5円〜/kWhですが、統合コストを加味すると価格は上がり、16.4〜18.9円〜/kWh。LNGや石炭などの火力の発電コストも、統合コストを加味すると価格は上がりますが、上昇幅はそれほど大きくありません。
ところが再エネは、統合コストを加味すると価格が跳ね上がります。例えば太陽光の発電コストは8.5円/kWhですが、統合コストを加味すると15.3〜36.9円/kWhになります。グラフに3本の棒がありますが、再エネ導入量を40、50、60%と増やして計算しています。つまり、日本で再エネの量が増えるほど、統合コストがかさんで、非常に価格が高くなります。

脱炭素化を進めると、やはり手間がかかるのでお金もかかります。私も含め国民の皆様が負担するわけですが、それに対する理解をどう広げていくかがポイントです。「脱炭素は価値が高い。進める必要があるからお金はかかってもいいんだ」という共通認識が国内で醸成される必要があると思います。
日本は少子化が加速するので、将来的にはそれほどエネルギーを使わなくなりますが、生成AIやDXが進むので、逆に電気はもっと使うようになります。2040年度のエネルギー需給の見通しが実現すれば、2013年比で73%のCO2削減が実現できる想定ですが、再エネ、原子力、火力の脱炭素化をすべて頑張って、やっと実現するという状況です。
