エネルギー講演会
「激動の国際情勢と日本の課題
国家の安全保障とエネルギーについて考える」
(3-3)
●日本の原油価格高騰の原因
2023年10月、パレスチナのイスラム組織ハマスがイスラエルに大規模な襲撃を仕掛けました。これに対してイスラエルは、ハマスの壊滅と人質の奪還のためにガザ地区への大規模な攻撃を始めました。それからちょうど1年経ち、ガザ地区は壊滅状態になり、死者は少なくとも4万人以上といわれます。激しい攻撃はいまなお続いています。
さらに、2024年1月、紅海周辺のアデン湾で石油タンカーが、ハマスとの連帯を掲げるイエメンの反政府勢力であるフーシ派によってミサイル攻撃を受けました。以降、紅海とその周辺での船舶攻撃が止まらず、その影響によって多くの船舶がアフリカ南端の喜望峰を通るルートに迂回することを余儀なくされています。
日本の原油タンカーは、喜望峰を通ってインド太平洋に抜け、南シナ海を通り、最後は台湾海峡を通らずに日本に来るというルートです。そのことで約15%程度は航路が長くなります。当然、燃料も時間も多くかかってしまいます。その結果、原油価格が上がっています。
ガソリン価格というのは、原油価格をもとに政府の補助金が充てられて安く設定される仕組みになっています。もしも原油価格がそのまま反映されてしまったら、ガソリン価格が跳ね上がることによって、輸送コストや物価が跳ね上がってしまうからです。それでは日本の経済はやっていけません。
そのように、中東情勢は日本および世界の物流・経済に影響を及ぼしています。
●エネルギーの安定供給に向けて
2024年は「エネルギー基本計画」の第7次見直しの年です。2040のビジョンについては、DX(デジタル・トランスフォーメーション)、GX(グリーン・トランスフォーメーション)の進展を考えて、脱炭素の電源の導入を最大限に進めていかなくてはなりません。火力発電や再生可能エネルギーだけでまかなうことに限界が出てくることから、わが国としては原子力発電と再生可能エネルギーを最大限に使って、エネルギーの安定供給を維持するという選択しかないと思います。
現在、日本のエネルギーの約72%は火力発電の脱炭素化、あるいは水素とアンモニアを混合して燃焼させるということですが、それを図りながら原子力発電の5%、再エネ21.7%を維持するために脱炭素化の電源に必要な投資をしなければいけません。
さらに、東日本の場合は、データセンターや半導体工場の新設が予定されており、電力が足りなくなることが予測されています。東日本では稼動していない原子力発電所が12基もあり、既に稼働している西日本と比べ、電力料金が2〜3割高くなっています。
ですから、やはり低炭素電源である原子力発電所を確実に動かせる状況に進めないといけないと思います。
さらに北海道では、寿都町と神恵内村の2カ所において、最終処分の文献調査の審議を進めていただいているということで、これは大変ありがたいことです。
日本の将来を考えた場合に、例えば原子力発電の革新的な炉を作って、より安全な炉にしていくという努力も必要です。しかし同時に、高レベル放射性廃棄物の最終処分をどのようにして進めていくかということも、われわれや子孫にとって死活的に重要な問題です。関係者の方々が本当にご苦労をされて、この文献調査の報告書を作り、審議をしていただいていることに敬意を表する次第です。
いずれにしろ、原子力発電所を再稼働するには大変お金がかかります。経費が無駄なく安全のために使われるのかということを十分に審査しながら再稼働を進めていき、将来は最終処分場を探すところまでたどり着かないといけないと思います。
原子力発電所も絶対に事故を起こさないようにするのを大前提に、原子力発電による恩恵を、そこに住んでいる人たちと子孫までもが心底理解できるような、そういう原子力発電のあり方を考えないといけません。
日本は世界の中で、原爆と原子力発電による被害を両方受けたただ一つの国です。不幸な中にも惨事を乗り越えてきた経験は、他の国には持ち得ない大きな教訓です。これを大事に育てながら、原子力の管理について皆で知恵を出していかなくてはならないと思います。