北海道エナジートーク21 講演録

エネルギー講演会
「激動の国際情勢と日本の課題
国家の安全保障とエネルギーについて考える」

(3-2)

●ウクライナ戦争の長期化に伴う変化

 ウクライナ戦争が2022年2月に始まってから約2年半以上が経ちました。初めはロシアが手を出しました。ウクライナには反撃の能力が十分にないと見て攻撃を仕掛けたわけです。

 ロシアはいま、ウクライナ東部のルガンスク州とドネツク州の約8割を取っています。あと2割でウクライナ東部がロシア領に完全に奪還されます。ウクライナは防戦一方で、反撃したくても十分な戦力(装備・兵員)がなく困り切っています。

 ウクライナは、さらにロシア西部クルスク州に入って、100ぐらいの村を全部制圧しました。そうすることによって、停戦交渉をする際、自国のルガンスク州とドネツク州を取り返すための交渉条件に使おうとしています。同時に、ロシア軍がウクライナ東部で活動するのをできるだけ防ごうという狙いもあります。

 ゼレンスキー大統領は2回目の和平会議を望んでいますが、交渉が全然できていません。アメリカから兵器をもらって戦っていくことしか残されていない。ウクライナからは既に120万人ぐらい脱走してしまっているので、兵員も足りません。

 もう一つ厄介な問題はヨーロッパです。ヨーロッパは、もしもウクライナがロシアの領土になれば次は自分たちが危ないとわかっているので、ウクライナに支援をしていました。武器も弾薬も出していましたが、このところ出し渋っています。なぜかというと、ヨーロッパの選挙では政権が入れ替わって保守的なリーダーが出てきていますが、そういう人たちは全部右派政党なんです。

 右派とは右翼ではなく、自国の利益を重んじる考えの人たちです。移民や難民によって国の治安も経済も悪くなる。食べ物やエネルギーも少なくなる。だから自分の国のことで精いっぱい。税金を取って兵器をウクライナに渡して、どれだけの効果があるのかということで、ヨーロッパからウクライナに送る兵器の数がどんどん減っています。

 そのように世界の傾向は、単にリーダーが変わったからではなく、思想が変わってきています。他国も大事だけれども、自分たちの国をもっと大事にしようという考え方です。ヨーロッパがそういう状態なので、ウクライナ戦争は非常に厳しい状況だと思います。

●ロシアへの経済制裁の影響

森本 敏氏

 ウクライナ戦争により、日本を含む先進国はロシアに対して経済制裁をかけました。ロシアが持っている銀行口座の凍結、ロシアが輸出している原油を買わないようにすることです。

 この影響を受けている国々は、ロシアの原油に依存するのは無理だということになり、脱炭素化に切り替えています。イギリスはその典型で、国内のすべての電力を洋上風力にしていくということです。そのほか、原発を再開する国も出てきています。ロシアの原油が止められた結果、天然ガスも止められ、原油の枯渇状態が起こっています。

 一方、ロシアも原油が売れないと産業が成り立ちません。持っている原油は先進国に売れないので、買ってくれる国に売るわけです。

 その最大の得意先が中国やインドです。中国はロシアへの制裁に加わっておらず、おそらく非常に安い値段で買い取って備蓄しているので、その外貨がロシアに入り、ロシアはそれで物資を手に入れています。ロシアが兵器を作る場合、部品やチップなどの細かい原材料も中国から仕入れています。そうやってロシアは物資を手に入れ、兵員と装備の足りない部分をイランと北朝鮮から確保したり、自国で不法に部品を集めて作ったりしています。

 兵員や装備が不足しているのはウクライナも同じです。しかし、NATOの国々から兵員を出すと条約違反になるのでできない。ウクライナは徐々に劣勢な状態になり、中長期的にみると、ロシアのほうが有利だと思います。