奈良林 まず、世界の原子力がどのような状況に置かれているかをお話しします。
北海道大学がサウジアラビアの王立カリファ大学と提携し、私はそこに行って学生たちに原子力を教えました。

これはサウジアラビアの石油に関する国内需要の伸びです。グラフの赤い棒は消費量で、年率8.7%でずっと伸び、生産量を示す青い棒は年率2.1%で増えています。サウジアラビアは世界最大の産油国ですが、2028年には国内消費で全部石油を使い切ってしまうということ。つまり石油が売れなくなるので、国の経済が成り立たなくなります。いま中東の各国は「原子力発電所を作ってほしい」と日本に大変熱い視線を送っていています。安倍総理も中東を訪問されていて、その背景にはこうした事情があるのです。これは、アラブ首長国連邦もまったく同じです。
サウジアラビアとアラブ首長国連邦の2カ国だけで、日本が輸入している石油の50%を超えます。こういう状況の中で、果たして原子力を止めてしまっていいのでしょうか。太陽光などの再生可能エネルギーがどれだけ使いものになるのか、そうしたことも気にしなければいけません。
アメリカではシェールガスの開発が盛んで、天然ガスが普及しています。これによって再生可能エネルギーが忘れられてしまいました。オバマ大統領の第1期政策は「グリーンエナジー」でしたが、第2期は「クリーンエナジー」に変わりました。太陽光や風力などの再生可能エネルギーは効果が非常に小さいということで、現在の天然ガスに変えてしまったのです。

では、天然ガスがいいかというと、問題もあります。スペインでは地下水のくみ上げで地震が起きたほか、ニューヨーク州に大きな牧場を持つジョン・レノンさんとオノ・ヨーコさんの息子さんのショーン・レノンさんがシェールガスに反対しました。なぜかといえば、この牧場の地下にシェールガスを掘るトンネルのパイプを打つという話になり、詳しく聞いてみると、岩を溶かす薬剤を水に入れて流すので、地下水を汚染してしまうとわかった。それで、いまアメリカでは、ミュージシャンを中心にシェールガス反対運動が起きています。このように、二酸化炭素を出す発電方式はまだ続いています。

これは私が飛行機に乗ったときに撮影したものです。地球を一周すると4万kmですが、成層圏の厚さは約40km。つまり地球の周長を1mの円に見立てると、大気の厚さは1mmしかないんです。こういうところに、たくさんの二酸化炭素のほか、シェールガスや生ガスで排出されるメタンが広がってしまいます。

そこでいま、イギリスのジェームズ・ラブロック博士が「ガイアの復讐」という著書の中で警告を発しています。ガイアとは地球で、「地球がそのうち人類に復讐しますよ」と。地球の温度が5℃上がると、陸上のみならず海も含めて地球はほとんど砂漠になります。以前はこうしたことが、日本でも真剣に議論されていましたが、いまは忘れ去られています。

これは砂漠が広がっていることを示したものです。アフリカのみならず、中国のゴビ砂漠、モンゴル、北アメリカ西海岸、オーストラリアなどで砂漠が広がっています。驚くべきことに、アマゾンの熱帯雨林も干上がって、ボートが砂の上に乗っている光景が見られるほどです。
特に私が危惧しているのは、大気に出ていった二酸化炭素は何億年もの間残ってしまうことです。そしてその二酸化炭素が人類に復讐するというのです。一方、放射性物質については、埋設処分をした場合に3000年ぐらいで放射能が100万分の1ぐらいになり、ウラン鉱石の10倍程度の弱い放射能となってしまう。このように時間とともに弱くなるので、人間が埋めて処分することができるのです。

2003年と2006年には、欧州の熱波で約5万人が熱中症によって亡くなりました。日本でも毎年2万人ぐらい救急搬送されています。
それから海の砂漠化も深刻です。アサリが死んだり魚が死んだりして、海の温度が上がっているということです。
いま始まっているのは、日本近海の温度上昇です。我々の持っている海のイメージは海藻がたくさん生えている黒い海ですが、青森県大間町に行ったときに漁師さんが「磯焼け」を心配していました。海藻がなくなってきて海底が白く見える状態です。日本では、海に面した39都道府県のうち、34都道府県で磯焼けが発生しています。

これはハリケーンですが、海水温が2℃上がると、ハリケーンの強さは2倍になります。ニューヨークをハリケーンが襲い、日本でも伊豆大島で土砂崩れが起き、インドをサイクロンが、そして2日後には史上最大の台風がフィリピンを襲っています。こういうことが実際に起きているわけです。人類の将来を考えたときに、我々が現時点で取るべき行動として、地球環境を守ることが非常に大事だと思います。
また、サウジアラビアのように今後も石油を輸出する国については、原子力発電所の建設を支援することで国内需要を原子力エネルギーでまかない、余った石油を日本に輸出してもらわなければいけません。私は教育者として、そういうことも自分の使命だと考えています。

これは過去65万年間にわたる地球の二酸化炭素とメタンの濃度です。現時点で、ほとんど垂直に濃度が上がり始めています。北海道大学が越冬隊を出して南極の氷を採取して調べているものです。3000mの氷で、夏冬があるので年輪のように縞模様がついています。その縞模様ごとに、氷の中に閉じ込められている空気を分析し、二酸化炭素やメタンがどのように含まれているのかを測定しているわけです。
このデータが示すところは、過去65万年間に起きていないことが現代に起きているということです。氷河期を経て現代はピークで、縄文期には地球が暖かかったですが、現代は氷河期に向かおうとしているといわれています。
ところが、2000年くらいから垂直に温度が上がり始めている。100年で2℃ぐらい上がるはずが、ほとんど垂直です。これが2℃あるいは5℃で止まるか。5℃まで上がるとラブロック博士が警告したように、地球の陸地と海洋が砂漠になってしまいます。ですから、しっかりと二酸化炭素の排出を止めなければいけません。たとえ3・11の福島の原発事故があったとしても、地球温暖化は避けては通れないですから、しっかりと対策を取らなければいけないと思います。まず、原子力発電の必要性について説明させていただきました。 |