奈良林 これはアメリカのリバーベンド原子力発電所です。1980年代当時、アメリカの原子力発電所の運転成績は非常に悪かったんです。何か少しでもミスがあったり故障があったりすると、その人を呼んで「なぜこうなったんだ。責任を取れ」と言う。
同じ時期、日本の原子力発電所の運転成績は世界でもトップクラスでした。そこでアメリカが調査団を作って日本に来て、各発電所をつぶさに観察しました。昔の日本には「ほめる」という文化がありました。頑張った人やよく働いた人を表彰するのが日本の文化でした。そうした日本の良さを取り入れ、原子力発電所が安全になるよう、少しでも工夫して運転成績が上がった人を表彰するようにした。

リバーベンド発電所では、そういう人を社内報でほめたり、ワインパーティーをして皆の前で「この人たちはよくやった」とほめるようにしました。
冒頭で私は「愛」が大事だと言いましたが、原子力発電所で働いている人たちにも愛が必要です。
私がリバーベンド発電所に見学に行ったときは、発電所ですれ違う人たちが皆「こんにちは、よく来ましたね」と声をかけてくれました。皆自分の仕事に誇りを持って働いています。
日本はどうかというと、近年は原子力発電所で働いている人たちの元気がなくなってきています。なぜかというと、定期点検に入る前に、ビルの4階建てくらいの厚さの書類を作ることを国が義務付けているからです。その書類に少しでもミスがあると、違反・罰金扱いです。原子力発電所を停止しなければならないこともあります。いまの日本はそういう環境です。
つまり、日本とアメリカの文化が入れ替わってしまっている。日本がいちばん反省しなければならないのはそこだと思います。 |