奈良林 ここでエネルギー先進国・スイスの例を紹介します。スイスは永世中立国で、どこの国にも頼らない姿勢を貫いています。火力で石炭・石油を輸入すると必然的に他国に依存することになりますから、自前のエネルギーを持たなくてはなりません。スイスは山岳地帯で雪が豊富なので、水力発電が非常に盛んです。その次に選んだのが原子力です。火力発電はわずか1.4%。基幹電源として水力と原子力を利用しています。つまり、発電でほとんど二酸化炭素を出さない国がスイスです。

川の中州にあるのはベツナウ原子力発電所で、ここからパイプラインが延びています。このパイプラインで地元の人たちにお湯を供給しています。小さな町や村にまでお湯が供給され、原子力発電所から来るお湯を使って生活する人は約2万人います。

ベツナウ原子力発電所の周辺にある一般家庭を、私も訪ねてみました。車のガレージに原子力発電所から来る熱交換器があり、水道の水を加熱してお湯を作っています。この家庭は全室床暖房で「うちは石油の値段なんて心配したことがない」と奥様はおっしゃっていました。北海道と気候が似ているスイスではほとんど石油を使わずに、こういうことが行われています。
また、スイスの生協の店舗では、原子力発電所から来る熱を暖房に利用しています。工場では熱を蒸気に換え、温室栽培にも原子力発電所の熱が使われています。

もう一つ、フィンランドについてご紹介します。寒冷な気候で森林が美しく、人口は約520万人で北海道とよく似ています。フィンランドの学力は世界第1位で、携帯電話のノキアをはじめとして国際競争力が非常に強いことで知られています。この国がいま、原子力発電所の建設を計画しています。

私が視察したオルキルオト原子力発電所を紹介します。北海道について少し自慢したいんですが、この発電所で使う原子炉の最も大事な部分、つまり放射能を閉じ込める鋼鉄製の原子炉圧力容器は、北海道の室蘭にある日本製鋼所が作った部品です。世界の大きな原子力発電所を作るには、北海道の技術がなければできないんです。こういう技術がきちんと守られないといけない。ですから、世界中で原子力発電所が売れると、北海道も潤うことになります。いま日本製鋼所では設備投資をして工場を拡張し、世界中からの注文に備えています。これが日本経済の牽引力になると思います。
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