北海道エナジートーク21 講演録

エネルギー講演会
「日本のエネルギー安全保障政策」

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エネルギー講演会「日本のエネルギー安全保障政策」

講師 遠藤 典子 氏

(慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任教授)

遠藤 典子 氏

京都大学大学院エネルギー科学研究科博士課程修了。博士(エネルギー科学)。専門はエネルギー政策、リスク・セキュリティガバナンス。経済誌副編集長などを経て東京大学にて研究に従事、2015年慶應義塾大学特任教授に就任。現在、経済安全保障の研究事業を運営している。2017年度安倍フェロー(研究者)。著書『原子力損害賠償制度の研究―東京電力福島原発事故からの考察』(岩波書店)で第14回大佛次郎論壇賞を受賞。財政制度等審議会、宇宙政策委員会、産業構造審議会産業技術環境部会、同通商・貿易部会、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会、同原子力小委員会など委員。

●ロシアによるウクライナ侵略の影響

遠藤 典子 氏 皆さま、こんにちは。今日はこんなに多くの皆さまとお話を交わすことができることを大変光栄に思っております。

 いまは大変重要な時期です。まず昨年2月24日にロシアによるウクライナ侵略が始まりました。まだまだ戦況はどちらに傾くかわからず、激しい戦闘が続いております。それに伴って、世界のエネルギー需給構造が大きく変わっていきました。

 こうした状況を踏まえ、つい数日前の2月28日に岸田政権のもとでエネルギー政策の大規模な転換がありました。一つは原子力について、また再生可能エネルギーについて「GX」という言葉を使いながらエネルギー政策を大転換させていくというわけです。日本も世界もエネルギー問題に直面していて、政策上どのように対応していくのかが重要な課題になっています。今日はそうした問題意識を共有させていただきたいと思います。

 ロシアがウクライナを侵略したと申し上げましたが、特に影響を受けたのが天然ガスです。いまは脱炭素を追求しなくてはならないということで、石炭はCO2排出量が一番高い火力発電の資源なので、それを減らしていき、ガスに切り替えていこうという転換期の過程にあったわけです。

 世界中が天然ガスに非常に依存していて、特にヨーロッパは、天然ガスそのもの、いわゆる「生ガス」をパイプライン経由でロシアから輸入していました。非常に大規模なパイプラインでの輸入量があって、それをロシアが一部カットしました。これは西側諸国がロシアのウクライナ侵略を良くないことだと言って制裁をしたことへの報復です。パイプラインからの供給が止まったので欧州は大慌てしました。当然、供給力がなくなるので価格が上がってしまいました。これが価格の推移です。

ロシアによるウクライナ侵略で天然ガス-LNG価格が高騰

 特に青色が欧州の天然ガスの市場価格ですが、一時期は非常に高くて100ドルぐらいになってしまいました。ところが、いまは落ち着いている状況です。なぜ短期的に落ち着き始めたかについては後ほどご説明します。日本はどうだったのかというと、JKMという赤い指標ですが、欧州につられて価格が乱高下しました。

 下の図が過去10年間の指標ですが、ご覧のように過去10年間はガスの価格が非常に安い状況が続いていました。

 それにはいろいろな要因があります。新しいガスも出てくるようになりました。とりわけアメリカからです。アメリカでは岩の間に埋まっている天然ガス、「シェールガス」が採れるようになって、それ以降は価格が定位安定し、天然ガスを調達する日本の商社や電力会社などは比較的のんびりと構えていたところにウクライナ危機が起きたことになります。