北海道エナジートーク21 講演録

エネルギー講演会
「地球温暖化をめぐる国際情勢と日本の課題」

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エネルギー講演会「地球温暖化をめぐる国際情勢と日本の課題」

講師 有馬 純 氏

(東京大学公共政策大学院特任教授)

有馬 純 氏

1959年 神奈川県生まれ。1982年東京大学経済学部卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省。2002年に国際エネルギー機関(IEA)国別審査課長、2006年に資源エネルギー庁国際課長、同参事官等を経て2008年に大臣官房審議官地球環境問題担当。2011年に日本貿易振興機構(JETRO)ロンドン事務所長兼地球環境問題特別調査員、2015年8月より東京大学公共政策大学院教授を経て、2021年4月より現職。主な著書に「精神論抜きの地球温暖化対策―パリ協定とその後」、「トランプ・リスク―米国第一主義と地球温暖化」、「亡国の環境原理主義」(エネルギーフォーラム)など。これまでCOPに16回参加。

●パリ協定の仕組みと特色

 皆さん、新聞などで「パリ協定」という言葉が出てくるのでご存じだと思いますが、簡単におさらいをさせていただきます。

 パリ協定は、2015年にパリで開かれたCOP21で採択され、2020年以降の地球温暖化防止のための国際的な枠組みです。

パリ協定の仕組み

 パリ協定の枠組みを申し上げると、左の赤い部分に地球全体の目標があります。産業革命以降の温度上昇を1.5〜2.0℃まで、できれば1.5℃に近づけていく。そのために、今世紀後半のできるだけ早い時期に地球全体で温室効果ガスの排出と吸収をバランスさせる。すなわち、カーボンニュートラルを達成するということがパリ協定の目標として書かれています。

 では、地球全体の目標に対し、日本を含むパリ協定の締約国が何をするかというと、右側「各国の行動」になります。それぞれの国情に応じて温室効果ガスの排出削減もしくは抑制に関する目標を設定する。それだけではなく定期的に、目標に向けた進捗状況を報告し、国際的なレビューを受ける。目標を5年に一度見直し、できれば、より野心的な目標に見直す。それから、現在は2030年を目標にしているところがほとんどですが、それに加え、今世紀半ばの2050年を念頭にした長期戦略を各国が策定することが求められています。

 パリ協定の目標の特色ですが、各国の目標は自主的に設定するということであって、「目標設定をし、報告をし、レビューを受ける」という一連のプロセスについては、パリ協定上の義務となっていますが、目標を達成できなかったから罰則を受けるということではありません。ここが、パリ協定に先立つ温暖化防止の枠組みである京都議定書とは大きく違うところです。

 京都議定書の場合は、議定書の中に、例えば日本なら「1990年比で6%減」というのが書かれていて、これを達成できないと罰則的なものがあるとなっていました。そこがパリ協定と京都議定書の大きな違いです。

 もう一つの違いは、京都議定書では日本を含むアメリカやヨーロッパなどの先進国だけが目標を設定し、その義務を負うことになっていたのに対して、パリ協定では、先進国のみならず中国やインドなどの途上国も含め、すべての国が何らかの目標を設定することが求められています。

 各国が自主的に目標を設定するわけですから、1.5〜2.0℃の安定化につながるような排出削減パーセントになるかというとまったくその保証はありません。その両者をバランスさせるために「グローバル・ストックテーク」という枠組みがあり、ここで温室効果ガスの削減動向を地球全体で“棚卸し”をするわけですね。

 それで各国の目標に向けた取り組みと比較して、両者の間にどれくらいギャップがあるかを明らかにしたうえで、各国がそれをまた持ち帰り、目標を見直す際の参考にするという設計になっています。

 パリ協定は1.5〜2.0℃という温度目標を設定したわけですが、最近の国際的温暖化をめぐる議論では、1.5℃で安定化、さらにいえば2050年カーボンニュートラルといった議論が、いわばデファクトスタンダードになってきています。