北海道エナジートーク21 講演録

エネルギー講演会
「コロナ禍の国際情勢とエネルギー」

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エネルギー講演会「コロナ禍の国際情勢とエネルギー」

講師 三浦 瑠麗 氏

(国際政治学者/株式会社山猫総合研究所 代表)

三浦 瑠麗 氏

1980年10月、神奈川県茅ケ崎市生まれ。内政が外交に及ぼす影響の研究など、国際政治理論と比較政治が専門。東京大学大学院法学政治学研究科総合法政専攻博士課程修了、博士(法学)。東京大学大学院公共政策大学院専門修士課程修了、東京大学農学部卒業。日本学術振興会特別研究員、東京大学政策ビジョン研究センター講師などを経て2019年より現職。近著に『21世紀の戦争と平和〜徴兵制はなぜ再び必要とされているのか』(新潮社、2019年)など著作多数。「朝まで生テレビ!」「ワイドナショー」などテレビでも活躍中。

●ウクライナ戦争の次に何がくるか

三浦 瑠麗 氏 本日のエネルギー講演会をお受けしたときには、まさかロシア=ウクライナ戦争の中で講演をすることになるとは思いもしませんでした。

 皆さまは北海道にお住まいですから、ロシアに対する感覚知を本州にいる人間よりもお持ちだろうと思いますが、その分だけ、ロシアとの関係で、事業活動や景気などの面で大きな影響があると思います。また、それだけでなく、今回の戦争は世界全体を巻き込み、今後の経済社会生活や安全保障に関わってくるような事態になるでしょう。

 この戦争を受け、多くの識者が言うところの「時代は根本的に変化した。もう後戻りはできない」という指摘はどういう意味合いを持つかというと、自由と民主主義を守るためには、もはや経済を中心とした、あるいは経済と政治を分けた形でのロシアとの共存は不可能であるということ。そして、NATOやEUはウクライナ問題を、手を束ねて見ているのではなく、単に同情的立場に立つのでもなく、ロシアを弱体化させる方向に根本的に舵を切るのだということです。

 これが示すところのインプリケーション(含意)は凄まじい。政治にも、安全保障にも、経済にも、人々のライフスタイルにも大きな影響を及ぼします。ただ、当初西側諸国がこのように考えて「脱ロシア」に走り、経済的にロシアを疲弊させてプーチン政権を退陣に追い込もうとする政策を続けたとして、次に何がくるのだろうとかということです。

●今後、日本が受ける影響とは

 これからロシアを西側経済から切り離し(デカップリング)、ロシア産のエネルギー依存を脱する方向に行ったとしましょう。しかし、その結果として自由主義と民主主義が打ち勝つかというと、そんなことはありません。

三浦 瑠麗 氏 なぜなら、ロシアに対する大規模な経済制裁によって経済関係が切り離された結果として生じるのは、アメリカの力の及ばない地域や分野がより広がっていくことにほかならないからです。

 英国のBP(旧ブリティッシュ・ペトロリアム)も米国のエクソンモービルなどの大手石油会社もロシア事業から撤退するとしていますが、日本企業が政府がかりで進出したエネルギー事業から撤退すると仮にしましょう。もちろん、ロシアとのエネルギー依存関係でいえば、日本はEUより傷がだいぶ浅く済むでしょう。しかし、その穴を埋める存在は常にいるというのが重要な視点です。

 また、今後日本にはエネルギー、経済、安全保障という3つの分野において大きな変化が訪れます。どこまでの変化を許容するかは民主主義で決定すべきです。われわれはNATOではないので多少世の中の流れに抗っても政権が崩壊することはありません。それに日本人はもともと中庸主義ですから、極端なことはしないと思いますが、ある程度の犠牲やコストは覚悟しないといけないでしょう。

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