北海道エナジートーク21 講演録

エネルギー講演会「脱炭素化に向けた日本の針路」
【第二部】トークセッション
     脱炭素化未来を描くビジネスのヒント

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エネルギー講演会「脱炭素化に向けた日本の針路」第二部「トークセッション 脱炭素化未来を描くビジネスのヒント(山本 隆三 氏×松本 真由美 氏)」

松本 真由美 氏

東京大学教養学部客員准教授

松本 真由美 氏

NPO法人国際環境経済研究所(IEEI)理事、NPO法人再生可能エネルギー協議会(JCRE)理事。
熊本県生まれ。上智大学外国語学部卒業。専門は科学コミュニケーション・環境・エネルギー政策論。大学在学中から、テレビ朝日報道番組のキャスター、ディレクターとして取材活動を行い、その後、NHKBS1で「ワールドレポート」などの番組を6年間担当した。2008年5月より東京大学での環境・エネルギー分野の人材育成プロジェクトに携わり、2013年4月より現職。現在は教養学部での学生への教育活動を行う一方、講演、シンポジウム、執筆など幅広く活動する。2020年9月、共著で「『脱炭素化』はとまらない!未来を描くビジネスのヒント」を上梓。総合資源エネルギー調査会「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会、産業構造審議会「グリーンイノベーションプロジェクト部会WG1などの委員を務める。

●メディアから環境NPO、研究活動へ

松本 真由美 氏松本 皆さま、こんにちは。松本真由美と申します。第一部では山本隆三先生に基調講演をいただきましたが、第二部はトークセッションということで、さまざまなお話をしていきたいと思います。
 トークセッションに入る前に、私自身の活動についてお話をさせていただきます。
 もともとはテレビメディアで報道の仕事をしていましたが、環境NPO活動をきっかけに東京大学で研究活動を始めました。
 現在は、東京大学の学生に授業を行っており、今期担当の授業が2つあります。「エネルギー科学概論」は各国のエネルギー政策やエネルギー技術に関する内容で、理系の先生とともに担当している授業です。もう一つの「全学自由研究ゼミナール」は、まさに“Road to 2050”脱炭素社会に向けて、経済と環境の好循環をいかにつくっていくかということを東大の学生とともに考える授業です。
 私は環境NPO活動をきっかけに東京大学で研究活動を始めましたが、テレビメディアで仕事をしているときに、リオ地球サミットやCOP1(国連気候変動枠組条約第1回締約国会議)、COP3(同第3回締約国会議)、京都議定書の採択など、地球温暖化問題に関するニュースを私自身もテレビのニュース番組で伝えていました。
 そうした中、「地球温暖化していない」「いや、地球温暖化はどんどん進行している」など両極端な論調が出てきて、どちらが正しいのかよくわからない。ニュースで伝えられるのは基本的な部分だけなんですね。もっと追究していきたいと環境NPO活動を始めました。しかし、NPO活動を始めても、エネルギー政策の根幹や課題が十分に見えてこないことから、東京大学での研究活動を始めました。
 その間、さまざまなエネルギーの現場や環境対策を視察、ヒアリングしました。
 例えば原子力では、幌延深地層研究センター、原子力発電所では稼働中や定期点検中の発電所にも行き、次世代技術として核融合科学研究所も視察しました。
 また、化石燃料を扱う石炭火力発電所、石油火力発電所、天然ガス火力発電所も視察しました。そのほか、次世代エネルギー技術として、再生可能エネルギーのさまざまな現場や企業の取り組みなど、海外視察も含めて視察してまいりました。
 そうした中、山本先生も長くご執筆された月刊「ビジネスアイ エネコ 地球環境とエネルギー」で7年間、毎月連載をしていました。「環境エネルギーダイアリー」という連載で、実際に私が足を運んで話を聞いてきた現場についていろいろと紹介をさせていただきました。
 そして、昨年は、私を含め3人の共著で「『脱炭素化』はとまらない!未来を描くビジネスのヒント」を出版しました。
 また、私が関わっている審議会・委員会では脱炭素化に関わるものが増えています。
 その一部ですが、再生可能エネルギーの主力電源化について議論をしている総合資源エネルギー調査会「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」委員を務めております。
 また、経済産業省・国土交通省「海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域に関する協議会」委員として、秋田県の有望区域の協議会の委員を務めています。北海道は、まだ有望区域・促進区域に選ばれていませんが、準備が進んでいる10海域のうち5海域が北海道にあります。私個人としては大変期待をしているところです。
 脱炭素化技術は既存のエネルギー技術だけでは実現することができないので、イノベーション技術は重要で、海外との協力で進める必要があります。そのプロジェクトとして、経済産業省「革新的なエネルギー技術の国際共同研究開発事業」委員を務めております。
 それから、いま注目されているのが「グリーンイノベーション基金」です。これは政府が2兆円の基金を投じて10年間かけて脱炭素化に資する技術を14分野選定し、研究開発・実証から社会実装までを継続して支援する基金のことです。私は「グリーンイノベーション部会ワーキンググループ1:グリーン電力の促進分野」委員を今年度から務めております。ワーキンググループ1は「洋上風力発電産業」と「次世代型太陽光産業」の2つが、ちょうど10月1日から11月15日まで事業者を公募しているところです。
 洋上風力産業では、山本先生がおっしゃったようにタービンメーカーはありませんが、さまざまな機関と部品のコストダウンを目指しています。浮体式の洋上風力発電については、福島沖での実証事業を経験しているので、浮体式に関連する事業のプロジェクトも入っています。
 また、太陽光については、皆さんが目にされるのは大きなシリコン結晶タイプの太陽電池だと思いますが、次世代太陽電池というのはペロブスカイト太陽電池と言い、薄いガラスやプラスチックに印刷技術を使い液体を塗り焼いてつくるため、どこでも太陽電池になるというものです。
 このペロブスカイト太陽電池は、日本の大学で研究開発が最初に進められましたが、シリコンに迫る発電効率になってきています。ただ、耐久性や超寿命化などの課題があります。モジュール化するにはまだ時間がかかるということで、そうした次世代の太陽光発電の技術開発予算が今年度からスタートしています。
 また、山本先生がおっしゃった小型モジュール炉も、私の関わっている「ワーキンググループ1」に入っています。
 あとは、ライフスタイル関連産業で、今後、私たちの生活にさまざまなデジタルが入ってくるということで、この4分野に私が関わっているところです。この中で動き出しているのが洋上風力とペロブスカイト太陽電池です。
 ちなみに山本先生からお話のあった水素は非常に期待されていて、今年度動き出した18プロジェクトのうち3,700億円が水素関連に拠出されることになっています。第1号案件として事業者も選定されており、水素に関して意欲的に研究開発を進めていく政府の姿勢が見えるのではないかと思います。

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