北海道エナジートーク21 講演録

 
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北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギーシンポジウム2015
「エネルギーの行方について考える」

(8-1)

エネルギーシンポジウム2015「エネルギーの行方について考える」
 

コーディネーター
  フリーアナウンサー 橋本 登代子 (はしもと とよこ) 氏
 
パネリスト
  広島大学大学院文学研究科
地表圏システム学講座教授
奥村 晃史 (おくむら こうじ) 氏
  NPO法人国際環境経済研究所
理事・主席研究員
竹内 純子 (たけうち すみこ) 氏
  北海道大学大学院工学研究院
エネルギー環境システム部門教授
小崎 完 (こざき たもつ) 氏
     

エネルギーミックス策定について
エネルギー政策の基本「3E+S」

橋本 福島第一原子力発電所の事故から4年半以上が経ちました。事故以来、国内の原子力発電所はすべて運転が停止し、原子力に関するさまざまな情報が流れ、信頼すべき情報とは何かを本当に考えさせられました。

橋本 登代子 氏 その状態も今年の夏にようやく解消され、鹿児島県の九州電力川内原子力発電所が再稼働となりました。一方、ここまでの間、原子力発電所の代わりにフル稼働してきた火力発電所の燃料である石油や天然ガス、石炭などの輸入や消費が、私たち国民の生活に大きくのしかかってきています。電気は国の経済の血液といわれています。エネルギー問題はそのまま経済問題に直結しているわけですね。

 そんな中、国は2014年4月に「第四次エネルギー基本計画」を策定、そして今年7月にはエネルギーミックスといわれる、2030年を目安とする「長期エネルギー需給見通し」を発表しました。

 本日は、エネルギーや環境、経済、地質などの専門家の皆さんからエネルギーミックスのポイントを聞きながら、会場の皆さんと一緒に勉強していきたいと思います。

 では、NPO法人国際環境経済研究所の理事で主席研究員の竹内純子さん、宜しくお願いいたします。 

 

竹内 皆さん、こんにちは。私は、エネルギー政策の基本の考え方をご紹介したうえで、いまの日本のエネルギー政策はどういう状況にあるのかについてお話しさせていただきます。

 まず、エネルギーミックスがどのように描かれていくのかについてお話しさせていただきます。

エネルギー政策の基本 3E+S

 エネルギー政策の基本の中で一番大事なのは「安定供給・安全保障」です。エネルギーは、必要とされるときに必要な量が確保されなければなりません。エネルギーがなければ、戦争さえも引き起こしてしまうというものです。

 二番目は「経済性」で、安価に手に入らないといけません。電気料金は、企業の国際競争力、国民の生活に大きな影響を与えます。原子力発電が導入されるときに「豊富低廉」といういい方をされたことをご記憶の方もいらっしゃるかもしれませんが、豊富低廉な電気は、国を支える源といわれました。

 そして、もちろん「環境」にも配慮をしなければ、周辺住民の健康や地球環境が維持できません。実は、テロの起きたパリで来月開催されるCOP21に参加する予定です。温室効果ガスの多くはエネルギーの利用に伴って排出されるので、温暖化は世界のエネルギー政策に大きな影響を与えます。

竹内 純子 氏 この三つのバランスを取らなければなりませんが、これが非常に難しい。というのは、その国の資源量や人口、気象、産業構造などによってバランスの取り方が違うので、いわば答えがないといえます。また、非常に長期的に考えていかないと、うまくバランスは取れません。

 例えば、私が先日出演したNHK「日曜討論」では、ある識者の方が「2030年には脱原発をして将来のエネルギーで」とおっしゃっていましたが、2030年の電力事情を考えるうえでは“明日”です。仮に明日、火力発電所の建設計画をスタートさせたとしても、環境アセスメントなどをしていたら、2030年にやっと稼働を始めるかというくらいの長いスパンでものを考えなければならず、非常に難しいところがあります。

 日本でも、これら「3E」のどれに重点を置くかというのは歴史的にも変化してきています。こうしたバランスの取り方が必要であるということを踏まえたうえで、いまの日本のエネルギー政策を一つ一つ見ていきたいと思います。

電気料金の高騰による影響

 

3.11以降の電源構成

 

竹内 本来は「安定供給・安全保障」からお話しするべきかもしれませんが、皆さんのお財布に直結する話で、すでに大きな被害が生じている経済性の部分からお話しさせていただきます。

 3・11以前、日本の電源の約3割をまかなっていたのは原子力でした。橋本さんからのご紹介にもありましたが、現在は全国でほぼすべての原子力発電所が停止しています。

 実はこういう会場で「原子力は止まっていますよね」と言うと、「再生可能エネルギーが増えていますからね」とおっしゃる方が多いのです。「では、再生可能エネルギーがまかなっている電気はどれくらいだと思いますか」と投げかけると、「20〜30%」という答えが返ってきます。それくらいあればいいのですが、太陽光や風力などの再生可能エネルギーがまかなってくれている電気は2.2%です。この前年は1.6%ですから急増はしているものの、まだ2.2%に過ぎません。

 では、いまの日本の電気をまかなっているのは何かというと、火力発電です。石油、石炭、天然ガスという化石燃料のいずれかを燃やして電気を作る火力発電に、日本は9割を依存しています。残念ながら、石油も石炭も天然ガスも、日本ではほぼ出ないと思っていただいて結構です。そうなると、海外から燃料を輸入するためのお金が、震災前と比べて2013年の1年間では、それまでよりも3.6兆円多くかかりました。

 発電のための燃料費は、それまで年間4〜5兆円でしたが、さらにプラスして3.6兆円。あまりにも大きなお金なので、実感が湧きにくいかもしれませんが、消費税が1%上がると、国民の負担は2兆円増えるといわれています。それぐらいの規模のお金が、すでに国外に出ていくお金として使われてしまっている。消費税は国内で還流しますが、国外に出ていくお金が1年で3.6兆円増え、累積ではもう12兆円ぐらいになっていると試算されています。

電気料金の高騰

 そうなれば当然、電気代は上がります。全国平均ですが、家庭用で2割、産業用で3割上昇しています。これは中小企業にとっては死活問題です。日本商工会議所のエネルギー問題の委員もさせていただいていますが、そこで聞こえてくるのは悲鳴です。「日本で雇用は維持できません」とはっきりいわれます。

所得階層別の世帯数の相対度数分布(2012年の所得)

 家計への影響も大きいです。日本の世帯別の所得分布を見ていただくと、全国平均で、一世帯の年間平均所得は537万円です。537万あれば、1カ月の電気代が1000円上がっても年間12000円ですから、吸収できる金額ではないかと思います。ただ、内訳を見ていただくと、年間所得が100万円未満の世帯は6.2%あります。100〜200万、200〜300万の世帯は13.2%ずつあります。要は、一人暮らしで年金生活をするお年寄りの世帯などでは、電気料金の値上がりがどれほど負担かということをよく考える必要があるわけです。

 電気というのは、究極の生活必要品です。例えば、夫婦二人で働いていて、出張が多くて家にいないから電気を使わない、収入が多いけれども電気代は安いというご家庭があります。一方で、一人暮らしで年金生活をするおじいちゃん、おばあちゃん世帯は、一日中家にいて、夏は冷房を、冬は暖房をつけないと生きていけません。一日中家にいて使わざるを得ない、収入は少ないけれど電気代の支出は多い。そのように、収入と支出はリンクしないのです。そうした生活必需品の値上がりがどれほど低所得世帯に響くかということを、エネルギー政策では当然考えなければなりません。

 震災以降、原発の問題をとらえて「命か経済か」という二者択一の議論がよくありました。「たかが電気」と言った人もいました。エネルギーのことを真剣に考えたら、私はそんなことはとても言えません。

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