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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

【Yes70号巻頭特集】
福島第一原発事故から何を学ぶべきか

〜私たちが知りたいこと〜
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【Yes70号巻頭特集】福島第一原発事故から何を学ぶべきか〜私たちが知りたいこと〜

3月11日の東日本大震災をきっかけに発生した福島第一原発事故。その収束に向けた作業は現在も続いていますが、一連の報道を見聞きしても、わかりにくいことが多くあります。そこで、エネルギーに関する啓発活動を行う女性グループ「エネ・フィーメール21」のメンバーが、北海道大学大学院特任教授の杉山憲一郎さんにインタビュー。福島第一原発事故について知りたいことを、生活者の立場で尋ねてみました。

(座談会収録日:平成23年6月22日)

北海道大学大学院工学研究院特任教授 杉山 憲一郎さん

北海道大学大学院工学研究院特任教授
杉山 憲一郎さん


 日本原子力学会フェロー、日本機械学会フェロー、工学博士。福島第一原発事故の関連では、原子力安全委員会専門委員、原子力安全・保安院防災小委員会委員として、福島第一原発事故の翌日から3月末まで、東京都内で助言活動を行った。


Ene Female21(エネ・フィーメール21)
生活者の視点でエネルギーや環境について学びの場を広げようと、平成18年に発足した女性グループ。一般公募の女性を対象とする「エネ・バスケット学習会」やエネルギー関連施設見学会、講演会開催、会報誌の発行など活発な活動を続けている。運営メンバーは6人で、うち4人が座談会に出席した。登録会員は約100人。


どんなダメージが事故につながったのか

古村  私たち「エネ・フィーメール21」は、古村 洋子さんこれまで生活者の視点でエネルギーや環境に関する学習会を重ねてきました。原子力についても数々の施設を見学して「なるほど、日本の原子力発電所はこれだけ安全を考えて作られているんだ」と思っていましたから、福島第一原発事故が起きたときは本当にショックでした。こんなに大きな事故になった原因は何だったのでしょうか。

 

杉山  一番の原因は津波です。津波によって非常用ディーゼル発電機が海水に浸かってしまい、非常時の全電源を喪失したことが大きく影響しています。

 

下道  津波の前に、地震で壊れてしまったことが原因ではないのですか。

 

杉山  地震そのものは大きな問題ではなかったと思います。もともと原子力発電所は地震に強い設計になっていて、揺れの強さでいえば、福島第一では最大加速度450ガル※1前後までは大丈夫と評価していました。東京電力が発表した地震観測記録によると、1〜6号機のうち、強さの最大値は2号機の550ガル。一部の原子炉で評価値を超える揺れが観測されたものの、原子炉建屋の安全性を脅かすほどではありませんでした。

 原子力発電所は、大地震や事故の際に「止める」「冷やす」、放射性物質を「閉じ込める」という安全機能を維持するよう設計されています。発電所には地震計が装備され、200ガル程度の揺れを感知すると、核分裂を止めるために制御棒が自動的に核燃料の間に挿入されます。

 福島第一では1〜3号機が運転中でしたが、今回の地震でも、すべての原子炉に制御棒が入り、運転を自動停止しました。ただし、地震の規模が大きかったため送電用遮断機などが損傷してしまい、外部からの電源が失われましたが、代わりに非常用ディーゼル発電機が起動しました。つまり、津波が来るまでは「止める」機能を含め設計通りだったことがわかっています。

 

古村  その状況が、津波でどのように変わったのですか。

 

杉山  全電源を喪失した原子力発電所で最も重要なのは、格納容器の健全性です。格納容器が健全であれば、放射性物質を閉じ込めることができます。

 福島第一で観測された津波の高さは最大で15m。地面から約5mまでが浸水し、タービン建屋地下にあった非常用ディーゼル発電機が使えなくなりました。それで全電源装置が失われたわけです。同時に、海水ポンプのモーターも浸水で働かなくなったため、原子炉停止後の炉心と使用済燃料から出る熱を自動的に「冷やす」ことができなくなりました。【図1参照】

【図1】福島第一原子力発電所の状況
【図1】福島第一原子力発電所の状況
出典:北海道電力「東日本大震災による原子力事故を踏まえた泊発電所の状況について」

 こうして「冷やす」機能を失ったあと、燃料の温度が上昇し、冷却水の沸騰が始まりました。燃料は鉛筆より太いくらいのジルコニウムという金属管に入っていて、この金属管は900℃を超えると沸騰で生じた水蒸気と酸化反応し、水素を発生させます。時間の経過とともに多量に発生した水素が格納容器を漏れ出し、原子炉建屋上部で水素爆発を起こして原子炉建屋が破損しました。

 このような過程で、放射性ヨウ素・セシウムに加えて気体の放射性物質が出てきて、格納容器が設計条件以上に加圧・加熱されました。このため、放射性物質を「閉じ込める」格納容器の健全性が大きく損なわれてしまいました。

 
 

※1
 ガル(Gal)とは、地震による地盤や建物の揺れの強さを表す加速度の単位で、建物などにどの程度の力が加わるのかを示す。1ガルは、毎秒1cmの割合で速度が増すこと(加速度)。

 

なぜ福島第一だけが事故に発展したのか

山口  同じ太平洋沿岸の原子力発電所として福島第二や女川もありますが、山口 博美さんなぜ福島第一だけが事故に発展したのでしょうか。

 

杉山  敷地の高さが明暗を分けました。福島第一の場合は、敷地高さ10mに対し、それを上回る約15mの津波が来て浸水しました。福島第二は、敷地高さ12mに対して約7mの津波だったので難を逃れました。また、女川に来た津波は約13m。敷地高さが14mなので、浸水を防ぐことができたわけです。

 

前田  日本ではこれまで大きな地震を経験しているのだから、津波対策についても見直すチャンスはあったように思いますが。

 

杉山  そうですね。福島第一は、マグニチュード9の地震による津波対策として不十分だったと思います。

 

山口  本来、原子力発電所には「多重防護」「5重の壁」など、安全を確保するしくみが備わっていますね。それでもこうして事故が起きてしまうのですか。

 

杉山  そうした安全上のシステムは、すべて「電気がある」という前提で成り立っているからです。肝心の電源を失ったことで、その根幹に支障をきたしてしまったのが今回の事故でした。

 

下道  電気がなくて発電所が困るなんて、皮肉な話ですよね。

 

杉山  原子力発電所で電源を失うような非常事態として、地震までは想定していました。しかし、津波が長時間に何度も来て電源が復旧できず、津波により生じた周辺の障害物を取り除くだけで時間がかかるような事態は想定していませんでした。ステーション・ブラックアウト、つまり発電所に電気がなくなって完全に真っ暗になってしまうと、懐中電灯の中で作業をしなければならないので困難を極めます。また、そうした状況下で復旧作業にあたった人たちのことを、国際原子力機関(IAEA)も非常に高く評価しています。

 
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