エネルギー講演会
エネルギーのこれからを考える
〜日本の政治・経済、そして地方の未来を見つめて〜
(2-2)
●泊発電所の安全対策を視察して
私は2025年8月に泊発電所を視察し、泊原子力事務所長から親身に説明をしていただきました。
現在、泊発電所は運転を停止していますが、いま何をしているかというと、「福島第一原発事故のようなことを二度と起こさないため、津波対策をしっかり進めています。地元の皆さまから安心していただけるよう、安全基準をしっかり満たす対策を行っています」と話されていました。
泊発電所の建屋を囲むように、非常に深い堀を掘り、そこに防潮堤を建設しています。しかも、防潮堤は地上に設置するのではなく、地下深くの岩盤層まで掘削し、岩盤の上に直接設置するそうです。
また、泊発電所のすぐ近くの建物についても、万が一、津波が来たときに流されて発電所に衝突する恐れがあるため、すべて移動しています。どれほどお金がかかるのかと尋ねたところ、「泊発電所3号機の建設費が約3,000億円。それに対して、安全対策には約6,000億円をかけている」とのことでした。
さらに、私は「なぜここまで審査に時間がかかったのですか」と質問したところ、原子力規制委員会から北海道電力に対して「ここが活断層ではないことを証明しなさい」と求められ、その証明が非常に大変だったとのことでした。
発電所建設前であればまだしも、すでに発電所が建設された後では敷地に土が埋め戻されており、敷地内に活断層がないことを証明するのが非常に困難でした。このため、活断層ではないことの証明だけで、約7年もの年月がかかったそうです。
北海道電力には土木の専門家がいて、徹底的に調査を重ね、ある1カ所に小高い丘を見つけ、「これを示せば活断層ではないことを証明できる」と判断したそうです。その場所を突き止めるまでに、長い時間がかかったとのことでした。
事務所長は「地元の皆様に安心していただけるよう、できることをしっかりとやるだけです。私達は科学的根拠に基づいて、丁寧に説明し続けていきます」と話されていました。
また、地元説明会では、「泊発電所は長期間止まっていますが、運転する方々は大丈夫なのでしょうか。車でも10数年運転していなければ最初は怖いですよね。再稼働して問題はありませんか」という質問が出されたそうです。
この点について、事務所長も心配しており、泊発電所の技術者を現在運転中の他の原子力発電所に派遣したり、かつて運転を経験したベテランと若手を一緒に訓練させたりしているそうで、再稼働に向けて細心の注意を払っているという話をしていました。
さらに、事務所長は「原子力技術者が非常に少なくなっていることも大きな課題です。原子力発電所が長期間止まっていたため、技術の継承が難しくなっています。再稼働まで時間がかかるほど、この問題は深刻になります」と話しており、その言葉が強く印象に残りました。
泊発電所3号機の定格出力は約90万kWです。政治家は工場誘致や産業誘致を公約に掲げますが、これからの時代は、電力の供給源をしっかり確保したうえで工場誘致などを訴えることが大事だと思います。これからの政治家はエネルギーのことを強く意識する必要があるのではないでしょうか。

●北海道経済のポテンシャルは大きい
私は、北海道経済のポテンシャルは非常に大きいと考えています。世界的に見ると、北海道の「寒さ」は大変貴重な資産になります。もし北海道で電力を安定かつ安価に供給できるようになれば、データセンターや工場などが北海道にどんどん進出してくる可能性があります。
その一方でネックになっているのが、「電力が足りない」という現実です。せっかく寒冷な気候と広大な土地があっても、電力が不足していては、企業は北海道に進出できません。
そういう意味では、安全性が確認されたうえで泊発電所が再稼働し、約90万kWの電力を供給できるようになることは大きな意味を持ちます。現在、石炭火力の苫東厚真発電所では総出力165万kWの電力を供給していますが、泊発電所が再稼働することで石炭火力の割合を下げることができます。
さらに、夢のある話として、北海道の洋上風力発電には非常に大きなポテンシャルがあります。試算では、洋上風力発電が本格的に導入されれば、最大で約1,470万kWの発電能力が見込まれています。そうなると、仮に北海道の冬場の電力ピークを約500万kWとして、ラピダスや苫小牧のデータセンターが稼働したとしても十分対応できる規模になります。
ただし、皆さまもご承知かと思いますが、先般、三菱商事が大型洋上風力発電事業から撤退しました。その時、三菱商事にできなかったらどこの会社ができるのかと、私もショックを覚えました。では、なぜ三菱商事ができないかというと、それはコストの問題です。
私は、洋上風力発電は原子力発電に並び、あるいはそれ以上に、北海道経済にとって大きな可能性を持つ発電方法だと考えていますが、課題は送電網です。洋上で発電した電気を道内に送るための送電網を整備するには約1兆1,000億円かかるそうです。
そこで私は、鈴木北海道知事に「北海道グリーン債」の発行を検討してはどうかと提案したいと思っています。これは北海道独自の取り組みとして実施するといいと思います。洋上風力発電は、出力が大きく、CO2も排出しません。そのため、国内外にあるESG投資の対象になり得ます。
北海道が「CO2を出さないエネルギーを安定的に供給できる地域」であることを示すことができれば、世界中の企業が北海道に注目するはずです。また、そのエネルギーが潤沢であるとあるという事実そのものが、北海道経済を力強く成長させるポテンシャルだと考えます。ですから、洋上風力発電は今後もあきらめずに探求していくべきだと思います。
現在、国は毎年のように電気料金やガス料金に対し補助金を出しています。もし、毎年巨額の補助金を出し続けるのであれば、国はその一部を洋上風力発電に対する支援に振り向け、民間企業が採算を取れる環境を整える方が、これから北海道経済にとっては良い政策ではないでしょうか。
●環境・経済の観点で再稼働の実現を
現在、「北海道知事が泊発電所の再稼働について容認の方向」という報道が出ています。再稼働申請中の原子力発電所を抱える地域の知事は、この判断に大変悩まれていると思います。もし私が知事で「あなたが再稼働容認の最終判断をしてください」と言われたら、正直、かなり重い判断だと感じるでしょう。
地元の理解や同意が大事であることは言うまでもありませんが、最終的な決定権者が知事である、という仕組みはいかがなものでしょうか。エネルギー政策は国の根幹に関わる問題です。それを都道府県知事に委ねるのは、少し違うのではないかと思います。
エネルギー政策については、国益をしっかり考えたうえで、専門的な知見を十分に踏まえ、最終的な判断は経済産業大臣または内閣総理大臣が行うべきだと思います。「再稼働を決断する」「その責任は内閣総理大臣が負う」という形にしないといけないと思います。決定権を知事に委ねるという現在のあり方は、各都道府県の知事にとって酷な制度だと、私は考えます。
いずれにしても、今の北海道は、石炭とガスを中心に発電しています。円安の影響で燃料コストが高騰するなか、高い電気料金を支払って、同時に多くのCO2を排出している状況です。私は、地球環境を守るという観点からも、経済的な観点からも、泊発電所には十分な安全対策を講じたうえで、着実に再稼働を進めてもらいたいと考えています。そのうえで、少しずつ石炭火力の比率を下げていくのが望ましいのではないでしょうか。
現在計画されている洋上風力発電も含めてすべてが実現した場合、25年後の2050年には、北海道はほぼCO2を排出せずにエネルギーを供給できる地域になる可能性があります。
世界の企業が、「寒さ」を資産と捉え、クリーンで安定したエネルギー供給を求めて北海道に拠点を構える。私は、このような姿を思い浮かべるとともに、北海道の経済がさらに発展していく未来を思い描いて、大きな希望を感じています。
