エネルギー講演会
「日本のエネルギー政策の現状と課題
〜電力需要の増大に備えて〜」
(2-2)
●原子力電源を巡る環境の変化
原子力については、2024年に女川原子力発電所2号機、島根原子力発電所2号機が再稼動をしました。今後を見通してみると、日本の原子力発電所は1970〜1990年代に建てられたものが多く、その頃に建てられた原子力発電所は、2040年代には稼動60年を迎えます。現状で60年の稼動が認められていますが、特に関西電力管内を中心に原子力の稼動の寿命を迎えています。
この“寿命”という言い方も制度上のことで、設備としてはまだまだ持つのではないかと思います。原子力はカーボンニュートラル電源ですし、今回のエネルギー危機で化石燃料の価格のアップダウンがあると、生活に大きな影響が出てしまいます。
また、原子力はエネルギー自給率を高めることができる重要な電源ですが、今後は減っていくとなると、原子力のリプレース(建て替え)が必要になると考えられます。第7次エネルギー基本計画でも「再エネか原子力か」ではなく、「再エネも原子力も」という考え方があり、非常に重要だと考えています。
また、データセンターと原子力という関係も重要になってきています。アメリカでは、1979年にスリーマイルアイランド原子力発電所2号機が大規模な事故を起こしました。この1号機は、2019年まで運転を続け、同年に廃止しましたが、「マイクロソフトが電気を買うので再稼動をしてください。リフレッシュする工事代もマイクロソフトが出します」という契約を結んで、今後20年近く使う予定です。
そのほか、アマゾンも原子力発電所の近接地にデータセンターを作り、原発とデータセンターをセットで運営しています。また、小型モジュール炉をデータセンターに併設させる動きもあります。
もう一つ重要なこととして、アメリカでは海軍に空母や潜水艦などが多数あり、原子炉を積んだ船を利用しているので、海軍で育てた原子力のエンジニアが電力会社に転職するというキャリアパスがあります。海軍とエンジニアとの親和性は高いといわれています。
日本の場合、原子力発電所が長らく止まっていたことから専門人材の確保が難しく、エンジニアを増やしていくのは非常にハードルが高いと感じます。
●再生可能エネルギーを取り巻く状況の変化
ヨーロッパでは、風力の導入を増やすことで再エネ比率を上げてきました。イギリスでは、一日の電力量の6割が風力という日もざらにあります。しかし、風が吹かない日は即停電でいいかというと、そうではありません。やはり電気を使うわけです。
では、その電気を何で供給するかというと、出力調整のしやすい火力電源ですが、風力の出力変動と火力の燃料の増減というのは親和性が高くありません。ヨーロッパでは2021年の4月から8月まで、風力の出力が長期間にわたって低迷したことがありました。
そうしたら秋口になって、次の冬はガス貯蔵設備のガスが足りないかもしれないという予想が出てきて、2021年ごろから、ヨーロッパでは電気代、ガス代が非常に高騰しました。
風力と同じく太陽光にも課題があります。東京電力管内では2022年3月22日、停電しかけるくらいの需給ひっ迫の事態がありました。このとき、電力需要は非常に高かったのですが、太陽光パネルの上に雪が積もって、出力が低迷してしまいました。
私自身、再生可能エネルギーはもっと増やしていく必要があると思いますが、再エネのカバーをするための何らかの制御ができる電源が必要になります。現実的には火力電源になりますが、火力はそれ単体ではCO2を出してしまうので、例えば蓄電池を使ったり、燃料をカーボンニュートラル化していくなどの方法が必要になります。
実態としては、再エネが増えれば増えるほど、火力電源での発電が減っていき、発電所を閉じていく方向になるわけですが、再エネだけでは供給力が不足して需給がひっ迫してしまいます。こういう事態が世界中で起きているという状況です。
●火力電源が直面する課題と今後の方向性
日本の電源構成は、7割以上が火力電源で、火力をなくしたら安定供給は不可能です。今後、自給率向上に向けて原子力、水力、太陽光、風力、地熱などカーボンニュートラル電源の拡大が進むと考えています。これらの電源と再エネを合わせた非化石電源を増やしていく必要があります。
化石燃料では、LNGと石炭が非常に多く使われていて、それぞれに特徴があります。まず、LNGはなかなか貯めにくい。もともと気体のものをマイナス162℃の液体にして運んでくるので、LNGタンクの中は魔法瓶のような状態になっています。一方、発電用の石炭は、オーストラリアへの依存度が極めて高いという偏在性があります。ただし、貯蔵がしやすいというメリットがあります。
また、調達に関する課題もあります。日本の電力・ガス事業者が確保するLNGの長期契約がどんどん落ちていく傾向にあります。
実はいま、中国勢が大量のLNG長期契約を確保していて、中国勢が転売したLNGを日本が必然的に調達せざるを得ないという現象が起きるのではないかという懸念があります。安全保障の観点でも、長期契約をしっかり確保していくことが必要だと思います。
また、石炭にも調達上の課題があり、日本の発電用の石炭は7割がオーストラリア産ですが、2030年には生産量を減らしていく方向です。
今回、策定されたエネルギー基本計画は、再エネ4〜5割、火力が3〜4割程度、原子力が2割程度という計画が示されています。バランスの取れた計画ですが、手放しで賞賛できるわけでもありません。
2040年までに再エネ・原子力が伸びなかった場合には、LNG火力の比率が上昇すると考えられますが、LNGは取り扱いが難しい燃料なので、課題を克服していく努力が必要だと思います。
今回のエネルギー基本計画では、パリ協定から再エネへの期待が非常に高く、ますます再エネへの投資が必要だと思います。一方で、カーボンニュートラルにあたっては、化石燃料の締めつけをするのではなく、化石燃料への投資も継続しながら、需要を徐々にカーボンニュートラルに移行していく。社会経済が維持できるような持続可能な形で移行を目指していくことが必要だと考えています。