北海道エナジートーク21 講演録

エネルギー講演会
「日本のエネルギー政策の現状と課題
〜電力需要の増大に備えて〜」

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エネルギー講演会「日本のエネルギー政策の現状と課題〜電力需要の増大に備えて〜」

講師 松尾 豪 氏

(合同会社エネルギー経済社会研究所 代表)

松尾 豪氏

学生起業への参画などを経て、2012年イーレックス株式会社入社。営業部、経営企画部に在籍、代理店制度構築、2016年の計画値同時同量対応、VPP事業調査、制度渉外などを担当。アビームコンサルティング株式会社で国内外電力市場・制度の調査・事業者支援を担当した後、2019年株式会社ディー・エヌ・エー入社。引き続き国内外電力市場・制度の調査を担当したほか、分離電源事業開発に携わった。2021年3月より現職。CIGRE会員、電気学会正員、公益事業学会会員、エネルギー・資源学会会員。

●第7次エネルギー基本計画の背景

 2021年に策定された第6次エネルギー基本計画では、パリ協定を受けて再生可能エネルギーの拡大が重視され、脱炭素に向けて野心的な目標が掲げられました。その間、ロシア軍によるウクライナ侵攻とエネルギー危機、そして原子力発電所を取り巻く環境の変化もありました。また、TSMC(台湾を拠点とする世界最大の半導体受託製造企業)の日本進出や、北海道ではラピダスの進出など半導体需要の変化もあります。そのほか、データセンターの需要拡大という大きな話題がありました。

 こうした流れを経て2025年2月、第7次エネルギー基本計画が閣議決定されました。

 まず、大前提となる日本のエネルギー政策として「S+3E」という基本的な概念が政府により掲げられています。これは「安全性」を大前提に、「環境適合」「安定供給」「経済効率性」の三つをバランスよく目指すという目標ですが、それぞれに課題を抱えています。

 エネルギー政策の変遷を「3E」の観点で振り返ってみると、「環境適合」と「経済効率性」の二つには焦点を当ててきたわけですが、東日本大震災を機に電力システム改革、電力自由化が行われた結果、電気代が下がる傾向ではありましたが、発電所の維持費用がなかなか回収できない状況に直面し、発電所が次々と閉鎖されていきました。その結果、東京電力管内では電力の需給ひっ迫が起きてしまったわけです。

日本のエネルギー政策の変遷

 一方、世界に目を向けると、ロシア軍によるウクライナ侵攻が2022年2月に起きました。ここから全世界的なLNG・天然ガスの不足に拍車がかかりました。これがエネルギー料金の上昇という現象を引き起こします。そして、コストプッシュインフレ、金利上昇という事象が起き、再エネの新設コストの上昇という問題が生じているわけです。

 これら安定供給の課題は、ともすると環境適合や経済効率性にも大きな影響をもたらします。これが、今回のエネルギー危機で世界が学んだことだと認識しています。

●需要家のニーズと今後の見通し

松尾 豪氏

 北海道でのラピダス進出をはじめ、半導体工場、電炉、データセンターなど、電力を大量に使う需要家があちこちで設備投資を計画しています。データセンターの消費電力は1棟あたり3〜7万kW、大きなものでは10万kWを超えるものもあります。

 原子力発電所は1基約100万kWといわれ、24時間しっかり発電しますが、データセンターはその10分の1ぐらいの電気を使います。また、いま計画されている電炉は1基あたり約50万kW、半導体工場は1棟あたり約15〜20万kWといわれ、非常に多くの電気を消費します。

 電力需要の実績を見ると、東日本大震災以後は省エネを相当意識したということもあり、電力需要は右肩下がりです。そんな中で電力自由化が行われたので、余剰になった発電設備を廃止した結果、ちょっと廃止しすぎたということで、需給のひっ迫が生じています。

 ところが、状況が変わってきました。前回のエネルギー基本計画では「電力需要は下がる」という予測でしたが、どうも電力需要は増えそうな状況です。ただし、カーボンニュートラルはどこまで達成するのか、電力事業はどこまで増加するのか、実は横ばいになるのか、まだまだ不確実性が高い状況です。

 例えば、北海道は電力需要が上がるという見通しがあります。話題になっているのはデータセンターと半導体工場です。私は、東京電力・関西電力管内の大きなデータセンターを調査のためにすべて訪問しており、データセンターは電力需要に非常に有望だと思っています。

●データセンターの増加と電力需要

 データセンターがなぜ必要かという話です。最近では「行政のデジタル化」などといわれますが、従来アナログで管理していた帳票などをデジタル化し、クラウド型のシステムを構築する自治体が増えています。また、金融機関は自社でデータセンターを持っていますが、20年ぐらい前のものなので更新時期がきています。それで、いまデータセンターの需要があるわけです。また、AIや仮想通貨の拡大がデータセンターの需要を高めている傾向にあります。

データセンターの増加と電力需要

 1年ぐらい前にIEA(国際エネルギー機関)が出したレポートによると、Googleで検索するよりも、生成AI「ChatGPT」で検索するほうが10倍近く電力を消費するといわれています。今後、データセンターによる電力需要は約2.2倍になる可能性があり、世界全体では、日本1カ国分の電力需要が増える可能性があるといわれています。

 世界では北米にデータセンターが集中していて、特に大きいのがバージニア州です。アジアでは、中国の北京や上海に次いで大きいのが東京です。

 ただ、東京電力管内では、データセンターの設置がだんだんなくなってきています。電力を大量に使うので、変電所の送電容量を食い始めている状況です。データセンターで電気をたくさん使うと、当然ながら発電所は足りなくなってきます。

 発電所ができるまでには10年ぐらいかかりますが、データセンターは計画に1年、工事に2年、計3年であっという間に稼動できます。こうした立ち上がりまでの時間の差は大きな問題を抱えています。

 東京電力管内では発電所が新しくできるまでに時間がかかるから、カーボンニュートラルの電気が多い別の地域に進出しようかという動きが出始めているようです。ただし、電気をどのタイミングで使い始めるかを予測するのは難しいです。データセンターの電力需要が増加するタイミングや量には不確実性があるので、それに対応した供給量が大事です。