山本 トランプ政権ではまだ予算案が出てきていないので、エネルギーと環境政策ではよくわからないところがあります。ただ、一つはっきりしているのは、石炭の復活です。アメリカは市場経済なので、政府が石炭を復活させる政策を入れるにしても限度があると考えられています。なかなか難しいかもしれません。
トランプさんが大統領になれたのは、日本と同じような事情です。アメリカの産業別雇用者数推移によると、日本と同じように製造業が減って、介護が増えています。介護に従事する人は増えていますが、日本と同じで給料は安い。給料が安くなった製造業でクビになり、介護や小売、観光などに行った人たちが非常に不満を持ち、「政権を変えよう」という流れでトランプさんに入れたということです。
ですから、今回トランプさんが勝った州を見ると、アメリカで製造業の比率の高い5州で全部勝っています。そのうち3州はいままで民主党が勝っていましたが、逆転したわけです。製造業に不満を持った人というのは、日本と同じ状況で、給料の高い製造業の仕事が減っているということです。
日本とアメリカの違いは、アメリカは経済が大きく成長しているので、給料の高い情報・金融などの仕事も増えていること。平均給料は上がっています。日本との違いはそれです。日本は全部の職業が沈む中で、給料の安い介護だけ伸びている。アメリカはそうではなく、平均給料は増えています。

ただ、アメリカでもイギリスでも同じような状況があって、みんなトランプや脱EUなど新しい方向に動いた。ということは、日本もこういう状況を放置していると、とんでもないことが起こるのではないかという気がしています。
どの国でも製造業の雇用が減り、製造業で給料の高かった人たちが給料の安い仕事に就かざるを得ないというのが共通した悩みです。ただ、日本がその中で悩みが深いのは、日本経済が成長していないということ。イギリスやアメリカは経済が成長しているから、不満はある程度吸収できるわけです。
私は大学教員ですが、こんなことやっていたら若い人に希望がなくなってしまいますよ。給料が下がっていくだけですから。うちの大学で就職の第1希望は公務員。安定しているからです。若い人に原発再稼働支持が多いというのは、それが電気代に直結しているということを、彼らは理屈の上でわかっているからです。だから、早く電気代を下げて景気をもっと良くして、給料を上げてほしいということなのだと思います。
私は反原発の集会にも平気で行きます。反原発の人たちは「子どもたちの未来のために」と言いますが、だとしたら原発を動かして電気代を下げないとダメだろうと思います。この状態がずっと続く日本経済だと、それこそ子どもたちに未来はないかもしれない。少子化を止めるには、保育所を作るよりも、給料を上げるほうが効果はあると思います。「生活が苦しい」という人が6割というのは異常です。バブル期の後でも「生活が苦しい」という人が国民の3分の1でしたから、それくらいの状況に戻さないと日本経済に未来はないのではないかという気がします。
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