山本
結論から言うと下がりません。一瞬下がるような感じがするかもしれませんが、中期的に見ると電気代は上がります。なぜかというと、電気というのは非常に難しい商品だからです。一年を通して需要が大きく変動し、一日の中でも変動します。そうなると、電力会社は一年のうち数日や数週間しか使われない発電設備を持っていなくてはいけません。電気は貯めることができますが、貯めたら皆さんの電気代はたぶん3倍か4倍になってしまいます。貯めるのにすごくコストが掛かります。

これは震災前の関西電力の数字です。石油火力は一年のうち17%しか動いていません。あとの80%以上は休んでいます。会社勤めの方はおわかりだと思いますが、こんな工場があったら会社はつぶれますね。でも、電力会社はこういう設備を必ず持っていなくてはいけない。自由化したときに、こういう設備を持つ人が出てくるかどうかというのが一番問題になっています。こういう設備を持っていたら損をするので、誰も持ちたがりません。主要国で最初に自由化を始めたのはイギリスですが、27年たってもまだ回答が見つかっていません。

これは燃料費と二酸化炭素排出量です。石炭はいまものすごく安いです。石炭火力だったら電気代は安くなります。ただ、二酸化炭素をたくさん出します。先ほどお話しした温暖化の問題で、ひょっとしたら国は、あまり石炭を使うなと将来言うかもしれません。いまアメリカは、石炭火力を廃止しろとオバマ大統領が指示しています。そうなると、燃料代がいくら安くても将来使えないかもしれないという問題があります。

これは電力会社のコストです。減らせるものがどこにあるのかと思います。少なくとも税金を払わなくてはならず、配電や送電のコストもあり、発電のコストもいりますね。その内訳を見ると、ほとんどが燃料費や減価償却費、よその会社から電気を買ったお金です。反電力会社の方が人件費を下げろと言いますが、人件費は7%しかありません。これは中部電力の例ですが、だいたいどこでも10%以下です。これを下げても、どれだけ電気代に影響するのかということです。

いままで電力自由化を進めてきた国で何が起こったかについて、アメリカの例を見てみます。黄色いところは、電力自由化を始めたけれども中断した州です。白は、今年3月までの日本と同じように総括原価主義の規制州です。なぜアメリカは市場経済を信じているのにこういうことになっているのか。その理由は、一度自由化して失敗しているからです。
「カリフォルニア大停電」という象徴的な出来事がありました。市場に任せていたら、電気代を上げるために売り惜しみをする電力会社が出てきたためです。自由市場ですから、政府は電気を売れとは命じられません。売り惜しみのすえ電気代が上がってしまい、それに味をしめた電力会社がどんどん停止していったら停電してしまった、というものです。他の州はそれを見て自由化をやめてしまったというのが、いまのアメリカの姿です。

イギリスは1990年から自由化して電気代が下がりました。政府が自国で採れた天然ガスを安く電力会社に卸したからです。ところが2000年代前半に急激に天然ガスの生産量が減り始めました。そうなると安く売るわけにはいかず、輸入したものを安く売ったら逆ザヤですから、天然ガスが上がったら電気代も上がってしまった。いまイギリスはエネルギー貧困と呼ばれる、暖房を選ぶか食べ物を選ぶかという家庭がかなり増えているといわれています。やはり電気がないというのは非常に大きな影響がありますね。
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