北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

'11新春講演会『地球温暖化問題の今』
【第二部】 トークセッション〜求められる温暖化対策〜

(5-2)

原子力の安全性

小崎 また、皆さんが気にされるのは「原子力の安全性」だと思います。原子炉と放射性廃棄物の安全についてお話しします。

 今、世界では400基以上の原子炉が動いています。昔、ロシア製の原子炉がおかしなことを起こしてチェルノブイリ事故が起きましたが、泊発電所をはじめ日本の原子炉はしくみが違い、同じことは起きません。放射性物質を中にきちんと閉じ込められるよう設計されているので、安全に動いています。

 放射性廃棄物の安全については私の専門分野です。簡単に説明させていただきます。

放射性廃棄物の処分方法

 放射性廃棄物には低レベルと高レベルがあります。放射性廃棄物は、他の産業廃棄物と違う性質を持っています。それは含まれている放射能は時間が経つとだんだん減る点です。一般の産業廃棄物にはカドミウムや水銀、鉛などが含まれていますが、それらは何万年、何億年経っても性質が変わることはありません。

 ですから、放射性廃棄物は年限を区切ることができます。例えば、低レベル放射性廃棄物の大部分は約300年置いておくと、問題のない程度まで放射能レベルが下がります。ちなみに、青森県六ケ所村では、この写真のような施設を作って低レベル放射性廃棄物を処分しています。

 また、高レベル放射性廃棄物は地層処分を行います。これは、廃棄物をガラス状にガチガチに固め、がっちりした金属容器に入れて、地下300mより深い安定した岩盤に埋めるもので、数万年は放射能を安全に閉じ込めます。こうしておくと、放射能はそう簡単に地表に出てきません。逆をいえば、地下300mから地上にまっすぐに急速に駆け上がってくるような放射性物質を見つけることができれば、私もノーベル賞をもらえると思いますが、無理ですね(笑)。それくらい安全に処分できます。

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原子力の可能性

小崎  次に「原子力の可能性」についてです。原子力産業は、これからの時代の稼ぎ頭になるだろうといわれています。

世界の原子力発電の現状と将来計画

 今、世界では436基の原子炉が動いていますが、いろいろな国で建設計画や将来構想があり、それらを合わせると、原子炉の数はいまの倍くらいに増えるだろうといわれています。

世界の原子力プラントメーカー

 しかし、原子炉はどこの国でも簡単に作れるものではありません。現在、3大プラントメーカーと呼ばれるのは、東芝、GE(アメリカ)と提携している日立製作所、アレバ(フランス)と提携している三菱重工です。あとは韓国、ロシア、中国が作っています。3社とも日本のメーカーですから、日本の原子力は輸出産業として大きな期待が寄せられています。

 これは原子力発電所の心臓部である原子炉圧力容器です。世界中の原子炉圧力容器の半分が、室蘭にある日本製鋼所で作られています。つまり、北海道はすでに原子力プラントの製造基地であるわけです。

ビル・ゲイツ氏に関する新聞資料

 話は変わりますが、これは昨年3月24日の新聞記事です。写真はマイクロソフトの創業者のビル・ゲイツさんで、個人資産が4兆8千億円だそうです。記事によると、ゲイツ氏は地球温暖化問題に関心が高く、東芝に対して次世代原子炉の連携を働きかけたとのこと。核燃料を交換せずに最長で100年の連続運転が可能な「夢の技術」とありますが、これはプルトニウムを上手く利用する方法で、これを一緒に開発したいと東芝に働きかけたそうです。ゲイツ氏が数千億円の私財を投入する可能性もあるとのことで、うちの学生は「4兆8千億円もお金を持っているのに、たかだか数千億円ですか」と言ってましたが(笑)、このように世界各国が日本の原子力技術に大きな期待を寄せています。

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原子力の今後の課題

 

原子力の今後の課題

   

小崎  今後の課題についてお話しします。我々原子力研究者の間では、非常に安定に運転している現在の「軽水炉」と呼ばれる原子炉に加え、今後は新型炉の開発が必要だと考えています。高速増殖炉、トリウム燃料炉、水素を直接作る高温炉のほか、発展途上国に貸すことのできる超安全炉・超小型炉などを開発したいと考えています。このように原子炉を展開していくと放射性廃棄物が出るので、その処分技術の研究開発も必要です。

 現在、原子力関係の技術者は国内で約35,000人います。しかし今後も原子力を進めていくには、10年くらいの間に技術者を1万人くらい増やさなければならないだろうといわれています。大学だけでなく、人を育てるにあたって大事なことは、地域の皆さんのご理解とご協力だと思います。今後ともぜひ宜しくお願いいたします。

   

橋本  ありがとうございました。新しい形の原子炉の開発など、技術研究をなさっている皆さんは、立ち止まるわけにはいかないのだということを改めて感じました。小崎先生、青森県六ケ所村の再処理工場の試験運転が止まっているそうですが、それについて教えていただけますか。

   

小崎  青森県六ケ所村に再処理工場があり、ここでは原子力発電の使用済燃料からウランとプルトニウムを取り出します。取り出したあとは高レベル放射性廃棄物が出ますが、これをガラス状にする工程があります。現在、その工程でうまく装置が動かないことがあるとわかり、手直しをしています。実験室で行うと簡単にできますが、大きな装置で厳格に行うとなると、ちょっとした不具合が原因でなかなかその次に進まず、慎重にやらざるを得なくなっています。

 ただ、幸いなことに、プルトニウムを使うのは少し先です。再処理をしてウランとプルトニウムを取り出すわけですが、北海道では多分来年から、プルトニウムの入ったMOX燃料を使うわけで、焦らずにしっかりとした技術を確立して進めていくのがいいと思います。

   

橋本  長期的に安全で安定した運転につなげるためには、橋本 登代子 氏慎重に進めるのが一番ですね。その他の課題として、日本では放射性廃棄物を処分する場所がまだ決まっていません。これは日本全体の問題ですから、みんなで考えたほうがいいんですが、国ももう少しリードしてくれるといいですね。

   

小崎  そうですね。「電気は使いたい。でも、ごみは自分の庭先には置いてくれるな」という意見が多すぎて、なかなか前に進みません。ただ、世界的にはフィンランドやスウェーデンも最終処分地を決めて動き始めています。そうした国々では放射性廃棄物の問題を真剣に考え、自分たちの子孫のためにベストな方法を選ぼうと努力していますから、日本でもそれを見習うべきではないかと思います。

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